風呂敷包みを解く飛鳥からは、何やら楽しげな鼻歌まで聞こえてきていた。
顔を背けたまま、チラと横目で彼女の姿を見遣る。
黒地に、白と淡いグレー、そして、淡い紫色をした大小様々な点が無数に散った柄は、さながら夜空に広がる星々のようだ。
腰に巻かれた帯は、表は白、裏は淡いラベンダー色をしていて、全体が黒いユカタでも涼やかな印象を与える。


「……綺麗だな。」
「え?」
「いや、そのユカタの柄。まるでミルキーウェイのようだ。」
「そうでしょ。私も、そう思ったの。夏の夜に見上げる天の川みたい。」


そう言って、風呂敷包みから取り出したユカタをパッと広げた飛鳥は、嬉々(イソイソ)と俺の肩に、それを引っ掛けた。
色は黒に程近い濃紺だが、彼女のユカタと同じように無数の星が生地一面に広がっている。


「ほら、お揃い。どうしてもこの反物で、シュラとお揃いの浴衣を作りたくて……。奮発しちゃった。」
「お前が自分で? 何故、俺に相談しなかった?」
「だって、相談なんてしちゃったら、楽しみ減っちゃうもの。それにシュラ、浴衣なんぞ着ないって却下しそうだし……。」


まぁ、確かに自ら好んで着たいとは思わんが。
慣れない和装は、どうにも落ち着かんからな。
だが、飛鳥がどうしてもと言うのなら、その願いを無碍には出来ん。
それに彼女のポケットマネーを使って俺のユカタまで仕立てたとなると、俺としても申し訳ない気がしてくる。


「良いの。私の我が儘なんだから、シュラの浴衣姿が見たかったのは。それに浴衣は、着物みたいに迂闊に手が出せないようなお値段でもないしね。お祭りとか、花火大会とか、意外と気楽に身に着けるものなのよ。」
「なら良いが……。」


とは言いつつ、盛大に溜息を吐く。
そんな俺の顔を見上げ、飛鳥は苦笑いを浮かべると、本格的に着付けを開始した。
言われるままに袖に腕を通せば、背伸びした彼女が首元を整えてくれる。


「シュラ、腰のバスタオル。」
「あ、あぁ……。」


腰に巻いたままだったバスタオルをシュルリと外せば、ビクッと見開かれる飛鳥の大きな瞳。
それからワンテンポ遅れて、甲高い悲鳴が響く。
そして、まるで小動物のように飛び退いた後、コチラに背を向けてしゃがみ込んでしまった。


「ば、馬鹿っ!!」
「ん、何がだ?」
「何がだ? じゃないでしょう! どうして下着を履いてないの?!」
「お前が言ったんだろう。下着は履いても良いとな。裏を返せば、履かなくても良いって事だ。」
「裏は返さないでください! あと、下着は履いてください!」


激昂した飛鳥に、顔に向かってビュッと何かを投げ付けられた。
受け止めたのは、白いペラペラの生地で作られたハーフパンツのようなものだ。


「何だ、これは?」
「ステテコ。それなら下着の線も出ないし、浴衣でも足捌きが良くなるから。」
「なる程、日本のパンツみたいなものか。」


スルリと足を通す。
あぁ、これは確かに楽だ。
通気性も良くて、夏には快適なアイテムだな。


「……履いた?」
「あぁ。」
「本当に?」
「嘘は吐かん。」


そろそろと後ろを振り返り、ステテコにユカタを羽織っただけの俺の姿を確認して、ホッと息を吐く飛鳥。
ユカタの隙間から覗く白いうなじと、頭を振る度にフワフワ揺れる結い上げた髪の毛が、妙に色っぽく見えて、俺は彼女の首筋から目が離せなくなっていた。
小動物のような動きをしていながら、この色気は何なんだ?
和装というのは、不思議と魅力的な色気を引き出す力がある。
いや、寧ろ色気の魔力と言うべきか。





- 2/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -