手早くユカタを着付けし、器用に帯を結ぶ飛鳥の手際には、俺は目を見開くばかりだった。
料理や菓子作り以外でも、こんなに器用なのだな。
隠さず賞賛の言葉を告げれば、日本人の女の子だったら誰でも浴衣は着せられると思うよと、そう事も無げに返されて驚いた。


「はい、出来上がり。」
「あぁ、これは……。」
「うん。やっぱりシュラ、浴衣が似合う。」


嬉しそうにニコニコと笑う飛鳥の言葉の語尾には、明らかにハートマークが付いている。
それが証拠に、俺のユカタ姿を全身隈なく、それこそ、頭の天辺から足の先まで繁々と眺めると、笑顔のまま姿見の前まで引っ張っていき、満足そうに横に並んで腕を絡めてきた。


「私達、お似合いでしょ?」
「あぁ、そうだな。」
「洋服だとドン引きしちゃうけど、浴衣だったら、お揃いでも気にならないものね。」


なる程、飛鳥はそれも狙っていたのか。
洋服では絶対にペアルックなど無理だ。
だが、このユカタならば違和感もない、嫌悪感もない。
それどころか、深い満足感すら覚える。
キッチリと女性らしくユカタを着込んだ飛鳥と、腰下にゆったりと帯を結んだ俺。
同じユカタでありながら、男女でハッキリと、男は男の、女は女の、それぞれの『らしさ』が現れる。
これぞ日本式の美しさなのだろう。


城戸邸で着物を着付けされた時も満更ではなかったが、このサラッと着られるユカタの方が、より自分に似合っている気がする。
それが横にいる飛鳥とお揃いであると思えば、尚更だ。
履物は、やや足に痛く、歩き難かったが、何処かへ出掛ける訳でもなかったので我慢した。
そもそも、このくらいの我慢が出来ずに、何が黄金聖闘士だ。


「さ、テラスへ行きましょう、旦那様。」
「旦那様……、またか。」
「だってシュラ、浴衣が似合い過ぎなんだもの。旦那様と呼ばずにはいられないの。」


溜息混じりに呆れの言葉を吐き出しても、飛鳥はニコニコと嬉しそうだ。
絡めた腕を引っ張るように、テラスまで連れてこられる。
そこに用意されていたのは、何やら見慣れない機械。


「これ、かき氷機。ココに氷を置いて、ハンドルをクルクル回すと、かき氷になって出てくるから。で、これね。」
「おい、これ……。」


傍に置いてあった巨大なクーラーボックスの中からは、純度の高い透明な氷の塊が幾つも出てくる。
このような氷、この聖域で簡単に手に入るとは思えないが……。


「まさか、カミュに頼んだのか?」
「えへ。そのまさかです。今朝、カヌレを沢山焼いて、宝瓶宮にお邪魔したの。」


懐かしいフランスの焼き菓子(しかも味は折り紙付き)を添えた、飛鳥のチャーミングなお願い。
相手が男であれば、その攻撃力は俺のエクスカリバー以上だ。
あのクールな隣人とて、断れる訳がない。


「……あ。」
「何だ?」
「これ使わないで、自分で削る?」
「ふざけるな。何故に俺が自分の手で氷を削らなければならん。」


シュッシュと手刀で削る真似をして、楽しそうに笑う飛鳥を横目に、俺は再度、盛大な溜息を吐く。
結局、かき氷機を使って、俺が山盛りに削った氷に、飛鳥の手製の抹茶シロップと茹でた小豆、そして、トロリと甘い練乳をたっぷり掛けて、豪華で豪勢なかき氷が完成した。


「はい。飛鳥特製の練乳宇治抹茶金時です、旦那様。しっかり味わって食べてね。」
「だから、旦那様は止めてくれ……。」


そして、スプーンで掬ったかき氷を、「あーん。」しろと言わんばかりに、俺に向かって差し出してくるのも。
だが、俺と飛鳥以外には誰もいない、このテラス。
たまには彼女の我が儘に乗ってやるのも悪くない、か。


「わっ?! んっ……。」
「フッ、美味いな。かき氷も、お前の唇も。」
「ば、馬鹿……。」


視界に広がるのは、雄大な十二宮の景色。
その景色に、まるでそぐわない浴衣姿の俺達、そして、抹茶味のかき氷。
器に残った氷を一気に掻き込むと、俺は冷えた口内を温めるため、もう一度、飛鳥に深く口付けた。



聖域の夏、浴衣の夏



(や、ちょっと! 首筋にキスは駄目よ!)
(何でだ? こんなに色っぽいうなじで俺を誘っておいて。)
(さ、誘ってません!)



‐end‐





山羊さまとお揃いの浴衣だー(嬉!)
この後、かき氷と夕涼みを十分満喫した山羊さまは、例によって浴衣姿の夢主さんに対する欲情を我慢出来なくなり、浴衣脱がし脱がされプレイを敢行すると思いますw
欲望垂れ流しでスミマセン;

2014.07.27



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