「ちょっと、二人共。こんなところで言い争いは止めた方が良いよ。ただでさえ目立つんだから。」
「む……。」
「そう、だな……。すまん、飛鳥。」


平日、午前中のショッピングセンター内。
人は疎らとはいえ、全く人目がない訳ではない。
飛鳥も言うように、ただでさえ図体がデカくて目を引く俺達。
世間一般男性よりも、容姿が優れているという自覚もある。
加えてシュラはマフィアと見紛う厳しい顔付き。
そんな男二人が、女を挟んで喧嘩となれば、自然、周囲の視線や興味も集めてしまうだろう。
見れば、遠巻きに様子を伺っている人が数人、ヒソヒソと囁き合っているではないか。
そんな好奇の目に晒されて、飛鳥には可哀想な事をしてしまった。


「シュラ、きっと糖分が不足しているのよ。だから、イライラして怒りっぽくなっちゃうの。ね、いつものところに行こう。」
「……あぁ、そうだな。」
「飛鳥、いつものところって?」
「ジェラート屋さん。このショッピングセンターの中にあるの。とっても美味しくて、買物に来た時は、必ず寄っているのよ。」
「ジェラート……。アイス、ね。」


冬だっていうのに、アイスとは……。
温暖なアテネといえど、冬は寒い。
気温だって一桁にまで下がる日もある。
今日は、どちらかといえば寒い方だ。
しかも、まだ午前中。
とてもアイスなんて食べる気にはなれないのだが……。


「ねぇ、シュラ。今日は何を食べる?」
「いつものだな。」
「私も、いつもので。」


明らかにシュラはウキウキしてる。
顔は、まぁ、いつもの厳つい強面から崩れないが、足取りが異様な程に軽い。
なんて単純な……。


「ミロは、どうするんだ?」
「え? あ、じゃあ、あまりクドくなさそうなので。」
「林檎が良いんじゃない? もしくはオレンジ。」
「じゃ、オレンジで。俺が林檎とか頼むと、冗談に聞こえるから。」
「シングルで良いのか?」


当たり前だろ、この寒いのに二つも食えるか。
そもそも男の俺がジェラートとか、それだけでも、こっ恥ずかしいだろう。
と思って見ていたら、シュラは超ご機嫌な様子で(ただし普段のコイツを知らないヤツが見れば、ご機嫌などとは思えないだろうが)、テキパキと注文を始める。


「ブルーベリーチーズとイタリアンレモンをダブルで。それと、ダークチョコとピスタチオをダブルで。あと、オレンジをシングルで。」
「シュラ。お前も二つ、食べるのか?」
「悪いか。」


いや、悪くはないが、流石は聖域一の甘い物好きだと呆れるばかり。
しかも、受け取ったアイスを見れば、より甘さと糖分が高そうなチョコレートの方がシュラのアイスだったのだから、更に呆れが深まった。


「何だ?」
「いや、チョコの方が飛鳥のだと思ってたから吃驚しただけだ。そんな濃厚なの、よく平気で食えるよな。」
「美味いものは美味い。悪いか。」
「いや、悪くないけど……。」
「シュラはチョコレートが大好きだから、ね。」


そうか、良ーく分かった。
恐ろしいくらいに似たものカップルなんだな、コイツ等。
二人並んで、ご機嫌な様子(と言っても、シュラは無表情で、飛鳥はニコニコ笑顔だが)でアイスを味わい反芻している姿は、いっそ微笑ましいくらいのバカップルだ。
確かに、『異常』が付くくらいの甘い物好きな山羊座の男の恋人の役目は、飛鳥にしか務まらないだろう。
巡り会うべくして巡り会った二人、そういう事だな。





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