真冬の冷たいスイーツ



「しっかし、こんなトコで二人と会うとはなぁ。」
「私達も吃驚しました。まさか、ミロさんに出くわすなんて。」
「止めてくれよ、さん付けなんてさ。こそばゆい。」
「えっと……、じゃあ、ミロで良い?」
「勿論。」
「…………。」


アテネ市街のショッピングセンター。
俺の隣には、クスクスと良く笑う飛鳥の姿。
その数歩先には、彼女の恋人であるシュラの広い背中。
背後の俺達、まぁ、俺は兎も角としても、飛鳥の事を気遣う素振りもなく、ズカズカと大股で前を歩いていく。
お陰で、飛鳥と、その横で女性の狭い歩幅に合わせて歩く俺は、暫くするとシュラとの距離が開いてしまい、慌てて小走りに追い駆ける。
先程から、その繰り返しだ。


「彼氏のクセに薄情だな、シュラは。」
「でも、いつも何も言わずに荷物を全部持ってくれるから。」
「普段から、こうなのか?」


飛鳥は少しだけ苦さを含んだ笑顔を浮かべて、コクリと頷いた。
普通、恋人同士であれば、真横に並んで歩くものだろう。
更に言えば、手を繋ぐか、腕を組むくらいは当たり前。
それが、どうだ。
今の俺達の状態は、どう見たって、俺と飛鳥が恋人同士、そして、シュラはその付き添いみたいじゃないか。
クールで硬派な男だとは思っていたが、恋人に対しての、この態度。
硬派と言うよりは、非情だな。
飛鳥は、どうしてこんな冷たい男を恋人になど選んだのだろう。
しかも、有名パティシエになるという自分の夢を諦めてまで。


「もう慣れちゃった。いつだってシュラは私の前を歩くから。」
「それで不満はないのか? それに不安にもなるだろう、こんな態度じゃ。」
「少し前までは、すごく不安にもなってたけど、最近は納得してるから。これがシュラという男性なんだ、ってね。それに以前にね、街で怖い感じのお兄さん達に声を掛けられた時、シュラってば、本気で斬り掛かりそうなくらい怒っちゃって。こうして素っ気ないように見えるけど、私の事を大切に思ってくれてると分かったから、今は不安なんて少しもないわ。」
「一般人に手を上げちゃマズいだろ。」
「手は出してない。睨み付けただけだ。」


突然、立ち止まった前方のシュラが、一般人の怖いお兄さん達に向けたであろう視線と同じくらい鋭い瞳で、俺を睨み付けた。
おーおー、これぞ眼力だけで人を真っ二つに斬ってしまえそうな視線ってヤツか?
飛鳥が絡むと容赦がないと、薄らと噂には聞いてはいたが、まさか実際に、それを俺が受ける羽目にはるとは思っていなかった。
まぁ、この程度で怯む俺じゃないがな。


「つまりは極度の照れ屋って事か。人目があると、なーんにも出来ない。」
「何だと?」
「そのクセ、二人っきりになると、途端に恋人ムード満載になるんだろ? ラテン系全開で飛鳥に迫る訳だ。そして、毎晩のように美味しくいただきますしては、幸せいっぱいな恋人生活を満喫ってな。流石は甘い物好きで有名なシュラだな。このムッツリ山羊が。」
「み、ミロ。あまりシュラを挑発しない方が……。」


その切れ長の目がキリキリと吊り上っていく割には、グッと押し黙ってしまったシュラ。
どうやら図星のようで、何も言い返してはこない。
俺も単純だと良く言われるが、コイツだって十分に単純だ。
なのに、そうは思われていないのが、シュラのズルいところ。
ズルいと言えば、男だらけの聖域で、さっぱり女っ気のない十二宮で、コイツばかりがちゃっかり可愛い恋人と同棲しているのが、大変、大いに、非常に、とても、凄く、滅茶苦茶にズルい。
恥を忍んで言ってしまえば、羨ましい、物凄く羨ましい。
なんで、こんなムッツリ山羊に、飛鳥みたいな素敵な彼女が出来て、俺には彼女が出来ないんだ、納得出来ん!





- 1/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -