不意に、飛鳥が横のシュラの顔を覗き込むようにした。
プラスチックのスプーンを唇に当て、ジッとシュラを見上げている。
うう、可愛いな、飛鳥。
シュラの野郎、涼しい顔をしやがって、羨ましいヤツめ。


「ね。そのピスタチオ、一口だけ欲しいな。」
「良いぞ。好きに食え。」
「ふふっ。じゃ、遠慮なく。」


なんだ、ちゃんと恋人同士らしい雰囲気にもなるんじゃないか。
ん、て事は、コイツ等の対面にいる俺は邪魔者か?
お邪魔虫か、居てはいけないオマケか?
俺が居なければ、『あ〜ん』とかベタな展開になったんじゃないのか?
シュラのアイスを横から掬って食べる飛鳥を見ながら、ふと湧いてくる悪戯心。


「なぁ、お前等。恋人同士なんだから、『あ〜ん』って食べさせて上げれば良いじゃん。」
「っ?!」
「駄目よ、ミロ。それはシュラにはハードル高過ぎ。」
「じゃ、俺が先に帰れば、二人でイチャイチャ食べさせ合いも出来るんじゃないのか?」


そもそも、俺がこの二人と一緒にいるのは、ただの偶然だ。
たまたま休日だったから、ワインと、それに合うチーズや生ハムなんかを物色しにショッピングセンターに来てみたら、出口近くでコイツ等とバッタリ鉢合わせ。
シュラも休日だったらしく、飛鳥の菓子作りに必要な用具やら食材やらを買い足しにきたそうだ。
砂糖や小麦粉、バター等は、聖域内の市場でも買えるが、菓子用のチョコレートや酒などは、やはり市街まで出てこなければならず、買い溜めのせいか巨大で重そうな袋を、シュラが抱えていた。


「ミロがいなくたって同じよ。周りに人がいない訳じゃないし。絶対にムリムリ。」
「ば、馬鹿な事を言うな、ミロ。」
「そうかぁ。俺なら全然、平気だけど。寧ろ、積極的にやるな。」
「人前で、そのような事をする奴の気がしれん。」
「折角、可愛い彼女がいるんだし、見せ付けたいって思うだろ。あとイチャイチャするのに、時と場所は選ばん。」
「選べ、せめて場所は。」


言い合っている間に、シュラは残りのアイスをガツガツと口に放り込み、綺麗に完食してしまった。
横の飛鳥は小さく苦笑いを浮かべながら、そんなシュラの横顔を見上げている。
これも、いつもの事だから、さして気にもしないのだろう。
これで、もし飛鳥が俺の彼女だったら、思い付く限りの恋人同士のイチャ付きっぷりを披露して、これでもかとベタベタし捲ってやるのに。
似たものカップルとはいえ、何故に、こんな冷淡な男とくっ付いたんだ、飛鳥……。


「ミロ。お前は飛鳥の作った大量の菓子、毎日、残さず食い尽くせるか?」
「いや、流石に、俺はそんな甘党じゃないし……。」
「そうか。それが出来んようなら、飛鳥の恋人になる資格はない。スッパリ諦めろ。」


ツラッとした顔で(しかも内心はドヤ顔で)、シュラにそう言われると、何だか物凄くムカつく、苛つく、腹立たしい。
この勝ち誇ったムッツリ山羊に、一矢報いてやらないと、正直、怒りの虫が治まりそうもない。


「……今日の夕飯は自宮で食べるのか?」
「そうだけど、それがどうしたの、ミロ?」
「なら、夕飯は『あ〜ん』って食べさせ合いして食えよな。恋人同士だろ、出来て当然。自宮なら他人の目はないんだ。出来ないなんて言わせない。」
「ぐ……。」


ふっ、シュラよ。
ぐうの音も出なくなったか、良いざまだ。
これで心はスッキリ、気分は晴れやかになった。
飛鳥には悪いと思ったが、固まったまま目を見開いているシュラに、俺はニヤリと笑ってみせた。



恋人がいる幸せに最大限の感謝を



翌朝。
教皇宮へと向かう途中で、磨羯宮に寄ってみた。
シュラは既に任務へと出ていたが、飛鳥はいつもの穏やかな笑みを浮かべて俺を出迎えてくれた。


「どうだった? ちゃんとシュラのヤツは『あ〜ん』してくれたか?」
「そ、それはそれはもう……。」
「どうした、飛鳥? 何だかゲッソリしてるようだけど。」
「そ、それは、ミロが変な事を強要したから、夕食の途中から、シュラに火が点いちゃって、その……。」


あーあーあー、ご馳走さん!
結局、自分ばかり良い思いしてるんじゃないか、あのムッツリ山羊め!



‐end‐





ミロ、甘い物好きバカップルに当てられるの巻w
この山羊さんは、相変わらずベッドの中でだけラテン系を貫いている模様ですw

2014.01.26



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