petit four的逆転身長差巨蟹宮に用があり、昼間の十二宮を下っていた。
気が進まないが、こればかりはヤツに頼まないと仕方がない。
デスマスクの機嫌を損ねないためにも、手土産でも持参で行くか。
そう思い、向かう途中で自宮に寄る事にした。
「……何をしている、飛鳥?」
「えっ?! わ、シュラッ?!」
リビングに入ると同時に目に映ったのは、部屋の真ん中で脚立に上る彼女の姿。
ただでさえフラフラと危なっかしいのに、予期せぬ俺の出現に驚いたのか、振り向いた刹那、飛鳥の身体が大きく傾いた。
慌てて駆け寄り、グラつく華奢な身体を手で支える。
「ふぅ、危ない危ない。」
「で、もう一度、聞くが、何をしていた?」
「あぁ、これ?」
聞けば、リビングのメイン照明の電球が切れ、取り換えようとしていたとの事。
そんなもの、俺が帰宅してから、交換を頼めば良いものを。
誰も居ない時に脚立から落ちて、怪我でもしたら、どうするつもりだったんだ。
私的な部屋の中とはいえ、ココも宮内である事に変わりない。
各宮とも全ての部屋が、普通の家と比べて、ずっと天井が高いのだ。
それに合わせて、脚立も段数の多いものが用意されてはいたが、誰がどう見ても、飛鳥が上るには危うさしか感じない代物だった。
「だって、気付いた時に取り換えないと、忘れてしまうんだもの。シュラが帰ってくるまで待っていたら、絶対に忘れちゃう。」
「だったら、何処かにメモでもしておけば良いだろ。」
「あぁ、成る程。……って、シュラは、どうしてこんな時間に?」
そうだ、危うく忘れるところだった。
デスマスクへの手土産に、飛鳥のスイーツを持って行きたいと思っていたのを。
「あぁ、だったら、キッチンに作り立てのパンナ、コッタが……、ある、よ……。」
「……飛鳥?」
「いや、その、この体勢って、ね。いつもと逆じゃない?」
「逆……。」
脚立の途中に乗っている飛鳥と、それを下から支える俺。
確かに、この目線の位置は、いつもの俺達とは正反対。
飛鳥の顔は、俺の顔の三十センチほど上にあり、俺の事を見下ろしている。
「ふ〜ん。シュラの目には、私の頭ってこんな風に見えているんだねぇ。」
「っ?! 何をする?!」
いきなり俺の肩に手を掛けてきたかと思ったら、頭頂部に予期せぬキスの感触。
無防備なつむじにギュッと唇を押し付けられて、慌てて頭を彼女から離した。
「シュラが私にいつもしている事でしょ。頭の上のアホ毛を摘まんだり、髪をクシャクシャにしたり、つむじにキスしたり。自分はして良いのに、私には駄目って、横暴じゃない?」
「む……。」
「という訳で、もう一回、つむじにキスを……。」
「よ、止せ!」
伸びてきた彼女の手を、思わず振り払ってしまった。
が、飛鳥はニンマリと目を弧の字型に歪めて、楽しそうに微笑んでいる。
めげずにノソリと手を伸ばし、俺の頭を捕まえようとする彼女。
俺が下から飛鳥の身体を支えている手前、この場から動けないと分かっていての狼藉なのだ。
「だから、止めろと言っている!」
「やだ〜。止めな〜い。」
「ならば、強制停止だ。」
「えっ?」
飛鳥の細い腰に腕を回し、その小さな身体を脚立から抱き下ろす。
そのまま強く抱き締めて、彼女の胸に深く顔を埋めた。
「ちょ、ちょっと! 何してやがるんですか、シュラさん!」
「見れば分かるだろう。胸に顔を埋めている。」
「埋まるほどないけどね、絶壁だからね……。」
「そう悲観する必要はない。」
確かに、飛鳥の胸は小さいが、俺は十分に満足しているし、毎夜、たっぷり堪能している
今だって、胸の感触は兎も角、仄かな汗の匂いと、甘いバニラの匂いが合わさって、俺の身体の奥底をジワジワと刺激して……。
「オマエ等、なぁにしてンだ、オイ。昼間っから、キャッキャとイチャ付きやがって。」
「「っ?!」」
その時、怒りを多分に含んだ声が響き渡り、俺と飛鳥はビクリと身体を震わせて、そのまま硬直した。
恐る恐る振り返れば、リビングの入口には、氷点下の眼差しでコチラを見遣るデスマスクの姿。
そうだ、俺は用があって巨蟹宮に向かう途中だった。
「小宇宙で『直ぐに向かう。』とか言ってたワリには、全然来ねぇし。どうしたのかと思えば、俺を待たせて飛鳥とイチャ付いてるって、なぁ。山羊座の聖闘士として、どうよ?」
「……すまん。」
この後、三十分以上に渡ってデスマスクの小言攻撃をネチネチと受け続けた。
約束に遅れた罪悪感もあり、俺はひたすら謝り倒すしかなかった。
いつもと逆の身長差に
まさかこんなに興奮するとは
(俺が来なかったら、ソイツをベッドに運んでたンだろ、どうせ。)
(……だな。)
(えぇっ!?)
(滅べ! このムッツリア充めが!)
‐end‐
思った以上に長くなってしまった(汗)
複数ページものにすれば良かった。
続き書きたいなぁ、もっと色っぽい雰囲気な話で。
そして、相変わらず蟹さまが可哀想な人でスミマセン;
2020.05.31