petit four的逆転身長差その弐



「ふぅ……。」
「お疲れ様、シュラ。」


帰宅後。
大きな溜息を吐いた俺が、リビングのソファーに大きな溜息を吐かせて、ドッカリと座ると同時。
飛鳥が汗の掻いたグラスを手にキッチンから姿を見せた。
グラスの中身は、良く冷えたグレープフルーツティー。
甘いシロップで煮込んだグレープフルーツの果肉と、ピンク色が美しいグレープフルーツジュースが、香り高いダージリンのアイスティーと層になっている。
その甘さたっぷりのアイスティーは、仄かな苦味も相成って、疲れ果てた俺の身体に沁み込んで心地良かった。
一気に半分程を飲み下し、ドンと音を立ててグラスをテーブルに置く。


「本っ当に疲れた、精神が。デスマスクの奴、最初から最後まで延々と愚痴を吐き続けやがって……。」
「はいはい、良く我慢しましたね、山羊さん。」
「山羊ではない、山羊座の聖闘士だ。」


ニコニコと笑いながら横に腰を下ろした飛鳥は、止まらない俺の愚痴を宥めるかの如く頭を撫でてくる。
そんな彼女の手の動きが擽ったくもあり、情けなくも感じて、直ぐに手首を掴んで引き離した。
そのまま手の甲に数度、キスを落とす。
今度は飛鳥の方が、擽ったさに顔を顰めた。


「これに懲りて、今後は執務時間中に発情したりしない事ね、シュラ。」
「何を言う。あれはお前が誘惑したからだ。」
「いやいや、誘惑なんてしていないですから。電球を取り換えていただけですから。」
「しただろう。俺のつむじにキスしたり。あれを誘惑と言わず、何と言う。」
「あれは、シュラがいつもしている事を真似しただけじゃないの。」


俺が飛鳥のつむじの髪の毛を引っ張ったり、キスを落としたりするのは、愛しさの表れ。
その愛らしい頭頂部を愛で、愛しみたいのだ。
つまりは誘惑しているという事で間違いはない。
そう言い放った俺の顔をジッと見て、それから飛鳥は頬を膨らませた。
それはそれは酷く不満気に。


「じゃあ、私ももう一度、シュラを誘惑しちゃおう。この時間なら問題ないものね。」
「ん……?」


グイと腕を引っ張られるままにソファーから腰を浮かし、床に引き摺り下ろされる。
そのまま床に座っていてと言われて、大人しくソファーを背もたれ代わりに腰を落とした。
すると、飛鳥は俺の真後ろに回り込んでソファーに乗り、背後からギュッと抱き付いてくる。


「逆転の身長差、背後からバージョンですよ。ふふっ、シュラのつむじも丸見え。」
「何というか……。誘惑されているというよりも、ただ単に飛鳥をおぶっているような感覚だな。」
「じ、じゃあ、これでどうですか。つむじにキス。」


頭のてっぺんに押し付けられる、彼女の柔らかな唇。
だが、それでも昼間の時のような興奮は感じられなかった。
後ろからというのが悪いのか、何となく、おぶった子供に悪戯されているような気分だ。


「悪いが、飛鳥。聖闘士に同じ技は二度も通じぬ。」
「同じ技って?! それとこれとは別でしょう?!」
「俺を誘惑したいなら、少しは趣向を変えてくれ。」


クルリと振り返ると、見上げる俺の視線と、目を見開いた飛鳥の視線がぶつかる。
そのまま身体も反転させ、正面から彼女を見上げた。
あぁ、下から見上げると、飛鳥の顔はこんな風に見えるのか。
新鮮な驚きと共に、湧き上がるのは、いつも以上の愛おしさ。
戸惑った表情の飛鳥の手を取り、再び、その手の甲にキスを落とした。
その唇から漏れる甘い溜息に、徐々に大きくなる期待感。


「趣向を変えろと言われても……。」
「いつも俺がお前にしているように、飛鳥が俺にキスしてくれれば良い。」
「シュラが、してるように……?」


たどたどしく伸びてきた飛鳥の両手が、見上げる俺の両頬を包んだ。
暖かな手が、やんわりと俺の顔を上向かせる。
ゆっくりと降ってきた飛鳥の唇は、真っ直ぐに俺の額に落ちて、眉と眉の間に熱い烙印を押した。


「まだ……、足りんな。」
「まだ?」
「あぁ。」


両手はゆっくりと俺の顔の線をなぞり、頬に掛かった髪の毛を掻き上げる。
微かに触れる指先の感触だけでもゾクゾクと身体の奥が疼き始める中、再び、熱い吐息を纏った飛鳥の唇が落ちてきた。
眼前に迫ってくる赤い唇。
艶やかなそれは、まず左の瞼に押し付けられ、それから一旦離れて、瞼とこめかみの間にジワリと触れた。
こめかみへキスをすると、いつも飛鳥は身体を震わせて喜ぶ。
それと同じ事を、彼女は俺にしてみせたのだ。


「いつものシュラみたいにしてみたけど、……どう?」
「あぁ、最高だ。興奮した。」
「本当に?」
「あぁ。興奮して、我慢出来なくなっている。」


言い終わらぬ内に、飛鳥の腰に腕を回し、そのままソファーに押し倒した。
身体の奥に灯った熱情の火は、一気に燃え上がり、抑えようにも抑え切れない。
誘惑されるままに流されて、このまま欲望の海へと身を投じるしか、燃え盛った熱情が終息しない事を知っているから。
そうして滾る想いに身を任せて、互いの服を毟るように脱がし始めた頃、真横のテーブルの上、アイスティーの中で溶け出していた氷が、カランと大きな音を立てた。



いつもとは逆からの誘惑
燃え上がるのは逆だからこそ



‐end‐





前回の逆転身長差の続きです。
巨蟹宮から帰宅後、夜の一幕。
たまにはプチフールでもセクシーなお話を、と思って書いたんですけど、どうですか?
色っぽくなってますかね(汗)

2020.06.06



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