petit four的チョコレートマジック



部屋の奥から漂ってくる甘い匂いに誘われて、俺はキッチンへと吸い込まれていった。
帰宅時から俺の鼻腔を擽る香りは、焼き立てのクッキーの香り。
そして、甘いチョコレートの香り。
覗き込んだキッチンでは、飛鳥がオートミールのクッキーの片面を、チョコレートでコーティングしているところだった。


「お、やっぱり現れましたな、甘党山羊さんが。」
「こんなにも美味そうな甘い匂いに、釣られない男はいないだろ。」
「いやいや。甘いものが苦手な男の人って多いからね。シュラくらいだよ、確実に釣られるのは。」
「そう、か……?」


話をしている間に、全てのクッキーのコーティングを終えた飛鳥が、溶かしたチョコレートの入っていたボウルを片付けようとする。
俺は無意識に、その手を掴んで止めていた。


「え、何?」
「そのチョコレート。まだ底に残っていて勿体ない。」
「舐める、ボウル? ペロペロと。」
「そうだな……。」


少しだけ思案した後、ボウルを持った彼女の手とは反対の手を取る。
首を傾げた飛鳥を余所に、その指をボウルの底に溜まったチョコレートの残液に浸し、それからチョコの滴る指を自分の口へと運んだ。


「っ?!」
「うん、美味い。」
「な、何で私の指?! 自分の指で掬い取れば良いじゃない!」


決まっている。
俺の指を使うより、飛鳥の指で掬い取って舐めた方が、数倍は美味いからだ。
柔らかくて華奢な飛鳥の指は、そのまま食べてしまえそうな程に甘美だ。
そこに甘いチョコレートが絡めば、永遠に舐め続けたくもなる。


「いやいやいや。美味しくないから、私の指なんて。」
「いや、美味い。十分に美味い。」
「どうして人前ではあんなに硬派で、手も繋ごうとしないのに。他人の目がないところだと、こうもエロフェロモン垂れ流しするかなぁ。」


エロフェロモン……。
何だ、それは?
そんなもの、垂れ流している覚えはないが。


「無意識なところが、より一層、質が悪いわよ、シュラ。……って、擽ったいから、もう止めて。」
「駄目だ。まだチョコが残っている。」
「残りは、シュラが自分の指で掬って舐めれば良いでしょ。」
「飛鳥の指で掬った方が美味い。」


指の股に飛んだチョコレートの雫を丹念に舐め取ると、ビクリと身を震わせ、身体を捩って逃れようとする飛鳥。
成る程、こういう部分も感じるのか。
今夜のベッドでは、指を攻めるのも良いかもしれない。
こんな良い反応をしてくれるのなら。


「あ、またエッチな事、考えてるでしょ。」
「……何の話だ。」
「シュラは無表情のくせに、露骨に雰囲気に出るよね、邪(ヨコシマ)な事を考えてる時って。」
「……そうか?」


無表情で無口で何を考えているのか良く分からないとは、周りから頻繁に言われる言葉。
飛鳥と出逢う以前に付き合った女共も、大抵がこの言葉を吐き捨てて、勝手に俺から離れていった。
だが、飛鳥だけは違う。
彼女は俺が顔に出さずにいようが、言葉にしないで黙っていようが、敏感に察して感じ取ってくれる。
いや、感じ取ってしまう、と言った方が当たっているか。
飛鳥には何もかもバレてしまう、俺の考えの全てをお見通しなのだ。


「夕食後が楽しみだ。」
「しませんからね、絶対。シュラの思ってる事は。」
「俺が何をするって言うんだ?」
「チョコレートプレイとかでしょ。分かってるんだからね。」


そうか、チョコレートプレイ。
考えてもみなかったが、それも悪くはないな。
ニヤリ、俺の口元に浮かんだ薄い笑みを見て、飛鳥がギクリとする。
余計な知恵を与えてしまったと気付いたようだが、もう遅い。
ますます今夜が楽しみになった俺は、最後の一滴を丁寧に舐め取ると、彼女の指を軽く甘噛みした。



チョコより甘い彼女の全て



(チョコのストック、隠しておかなきゃ……。)
(何か言ったか、飛鳥?)
(いえいえ、何でもないですよ。気のせいですよ。)



‐end‐





ムッツリエロ山羊さま降臨中。
今月はムッツリエロ山羊さま祭りかもしれない(苦笑)
山羊さまはペロペロしたいお年頃w

2020.01.23



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