petit four的留守番さんのオヤツ



「お邪魔するよ、飛鳥。」
「いらっしゃ〜い、ディーテ。」


ポリポリ、モグモグ……。
暖かな午後。
飛鳥の顔が見たくて磨羯宮を訪れると、当の本人は一人でノンビリと過ごしていた。
テーブルに向かいティータイムを満喫しているのかと思いきや、手元を覗くと、そうではないらしいと分かる。
右手には鉛筆、テーブルの上には綺麗な和菓子の絵が描かれたスケッチブックと、数種のナッツが盛られたガラスの器、左手はそのナッツを摘まみ、一定間隔で口へと運んでいる。


「一人かい?」
「そ、一人。」
「シュラは?」
「デスさんとお出掛け。本人は全然乗り気じゃなかったんだけど、デスさんに半ば無理矢理に引き摺られて行ったの。」


ポリポリ、モグモグ……。
それはつまり男同士じゃないと行き辛い買い物って事か。
強面で目付きも態度も悪いマフィアみたいな男なのに、一人で買い物も行けないとは、随分と寂しがりの蟹だな。


「なら、コッチはコッチで、オヤツでも食べながら女子トークでもしようか。」
「女子トーク?」
「恋愛バナシで盛り上がるとかね。」


ポリポリ、モグモグ……。
私が邪魔に入った事で和菓子のイメージ絵を描いていた手は止まったが、ナッツを摘まむ手は一向に止まらなかった。
モグモグと一粒ずつナッツを摘まむ姿は、やはりリスやハムスターのような小動物を連想させる愛らしさだ。
目を細めて眺めている内に、無意識に手が伸びて、飛鳥の頭を撫でていた。
彼女にとっても予想外だったのだろう、キョトンと私を見上げてくる。


「座ってもイイかな?」
「どうぞ、どうぞ。」
「さて。じゃ、女子トークをしようか。」
「ディーテは女子じゃないのに?」


顔だけ見れば女子っぽいけどね。
残念ながら、私は身体も心も女子ではなく、立派な成人男子だ。
それでも、聖域に住まうガサツな男共とは到底出来ないような、女子向けの華やかで潤いのある話でも、私が相手なら違和感なく出来るだろうと思うんだけどね。


「私になら話し易いだろう? ほら、何でも言ってみて。」
「何でもって言われても……。私の口から出る恋愛バナシなんて、シュラとの惚気か、シュラへの文句か、その二択以外ないわよ。」
「まぁ、そうか。そうだね……。」


シュラへの文句は、耳にタコが出来るくらいに散々聞かされているから、正直、今は遠慮したいところだ。
シュラとの惚気も、彼女がパティシエだけあって砂糖塗れのゲロ甘なものばかりなのだろうから、そっちも正直、遠慮願いたい。
という事は、今、飛鳥と出来る恋愛バナシは何一つないという事か。
あるとすれば、いつものように私が挨拶代わりに囁く口説き文句くらいなもの。
溜息を一つ吐いてから、ガラス皿に盛られたナッツを一個、口の中に放り込んだ。
ポリポリ、モグモグ……。


「……あ、このアーモンド、美味しいね。」
「でしょ。ちょっとだけ一手間加えてあるのよ。どういう一手間かは内緒だけどね。」
「なんだ、教えてくれないのかい?」
「そ、内緒なの。」


ポリポリ、モグモグ……。
可愛らしいリスさんは、ナッツをモグモグしながら私にウインクしてみせる。
意識に無いとはいえ、こうして私の心を擽ってくるのは反則だ、罪な女の子だよ、全く……。


そう言えばアーモンドの伝説、ギリシャ神話があったな。
恋に落ちた男と結婚の約束をした王女が、海岸で男の帰りを待ち続けるけれど、結局、男は心変わりをして戻っては来なかった。
王女は病気で死んでしまい、その亡骸が神々の手によってアーモンドの木に変えられたとか。
いっそシュラも飛鳥を待たせたまま帰って来なければ良いのに、だなんて非情な事を考えてしまう私は、やはり彼女には相応しくないのだろうか。


もう一つ溜息を吐き、ナッツの山の一番上に乗っていたアーモンドを一粒、手に取った。
綺麗な涙の形をしたアーモンドは、幸せいっぱいの飛鳥には似合わない食べ物だ。
これは私が全て食べてしまうのが最も良いに違いない。
そう言い聞かせて、残っていたアーモンドを次々と口の中へと放り込んだ。



ナッツの伝説を噛み砕いて



(あ、ディーテったら! 全部食べちゃ駄目!)
(いやいや、これは私が食べてしまわなきゃね。)
(折角の美味しいアーモンドなのに……。)



‐end‐





何でかは分からないのですが、突然、お魚さまと夢主さんが向かい合ってナッツをポリポリ食べている映像が浮かんだので書きました(苦笑)
そんな私はナッツ嫌いです(汗)
あ、蟹さまは、きっと成人映画を観に行ったのだと思われ……、ゴホゴホ。

2018.04.30



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