petit four的今日の決意



「……あ。これ、美味い。」
「え、どれ? 何? どっち?」


テーブルに並んでいた色とりどりのチョコレートの内の一粒を摘まみ、その美味さに、俺は思わず目を丸くした。
正直、そこらに売っているようなチョコレートと何ら変わりないだろうと思って口に放り込んだのだが、流石はアテナやシュラが惚れ込むだけのものはある。
軽い気持ちで摘まみ食いした事を平謝りしなきゃいけないレベルだったが、飛鳥が激しく食い気味に感想を求めてきたため、その気持ちは何処かへ飛んで薄れてしまった。


「これ。この白に薄ら緑が透けて見えてるチョコ。」
「ピスタチオ入りのホワイトチョコね。うん、それ、自信作なの。」
「じゃ、こっちは?」
「これはホワイトチョコにフリーズドライのラズベリーを砕いて塗してみたの。それも食べてみて。」


飛鳥の勧めに従って、遠慮なくチョコレートを摘まむ。
ポイと一口で口の中に放り込んだ瞬間、圧倒的な酸味が口内いっぱいに広がった。
それから柔らかい甘さ、そして、チョコレートの苦みと深み。
最後に、それら全てが口の中で絶妙に混じり合って、ホワンと幸せな気分が胸の中に訪れる。


「あ〜、これも美味い。」
「ホント? お世辞じゃなくて?」
「うん。お世辞じゃなく、本気で美味い。」


そう言うと、今にも小躍りでも始めそうなくらいにウキウキと喜ぶ飛鳥。
こういうところが愛らしいんだよな、彼女は。
リスかハムスターみたいな小動物っぽくて、見ていて和む、癒される。
頭を撫で撫でしてやったら、喉をゴロゴロと鳴らしそうな愛くるしさ。
なんて、勝手なイメージだけど。


「……ん? これは?」
「あぁ、それね。シュラの好物なの。」
「シュラの?」


小さなガラスの器の中に、山と盛られた小粒のホワイトチョコレート。
コーヒービーンズチョコみたいに、小さくて楕円形で。
シュラの好物ね、何やら怪しげだな。
そう思いながら口に入れると、ホワイトチョコと何だか分からない未知の甘さが広がった。
そして、フニャリと柔らかい食感。
何だ、こりゃ?


「実はこれ、甘納豆をホワイトチョコでコーティングしたお菓子なの。どう?」
「何だか……、変な感触だな。味も。正直、良く分からん。」
「シュラは大好物なんだけどね。私も好き。やっぱり、こういうのは日本人向けなのかなぁ。」
「飛鳥。シュラは日本人じゃないと思うぞ。」
「そこは気にしないの。シュラは日本人みたいなものだから。」


シュラを日本人の括りに入れる理屈は良く分からんが、取り敢えず、逆らわない事にした。
ここで飛鳥に逆らっても、良い事は何一つない。
多分、アイツの味覚が日本人に近いって意味なんだろう。
それにしては、甘党が過ぎるのだが……。


「飛鳥さぁ。あんな日本人みたいな甘党ムッツリ山羊とばかり一緒にいないで、たまには明るく楽しいギリシャ人と付き合ってみたらどうだ? 例えば、俺とかさ。」
「どうしたの、ミロ? そんな唐突に。」
「唐突でもないだろ。俺は前から飛鳥が好きだって言ってる。それに、俺にだって口説く権利くらいはある。」


アフロディーテなんか毎日のように飛鳥を口説いてるじゃないか。
そう言うと、あれは挨拶みたいなものだからと、彼女はクスクス笑って答えた。
じゃあ俺も挨拶代わりに口説くから、顔を合わせる度に口説くから。
少しだけ意地になって身を乗り出せば、不意打ち気味に、口の中へとホワイト甘納豆チョコレートを押し込まれた。
目を丸くする俺、クスクス笑い続ける飛鳥。
さっきまでは小動物みたいだなんてノホホンと思っていたのに、思わぬところで彼女が年上だという事実を突き付けられる。
軽くあしらわれたんだと気付いた後も、特に不快に感じなかったのは、やはり飛鳥の持つ和んだ雰囲気と愛らしさ故だろう。



決めた!
本気で口説いてやる!



(そんな事を言ってたら、シュラが目を吊り上げて怒るわよ。)
(だよなぁ。それはちょっとヤだなぁ。アイツ、独占欲強過ぎ……。)



‐end‐





ミロたんとノホホン・ホノボノな話を書きたかったので。
特にオチなしなんですけどね(苦笑)

2018.04.18



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