petit four的ハロウィン



訪れた磨羯宮は、いつにも増して甘い匂いに包まれていた。
バニラの香りと、香ばしいキャラメルの香り。
そして、ふっくりと甘いカボチャの香り。


「ディーテ、いらっしゃ〜い。」
「これはこれは、随分と可愛らしい魔女のお出迎えだね。」


とんがり帽子に黒マントという良くある魔女のコスプレ姿の飛鳥が、ニコニコ笑顔で出迎えてくれる。
腕に下げた大きなバスケットの中を覗くと、飛鳥特製のスイーツがカチャカチャと音を立ててぶつかり合っていた。


「お菓子を食べてくれなきゃ悪戯するぞ。」
「飛鳥。それは、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、の間違いだろう?」
「ココでは食べなきゃ悪戯されちゃうのよ。」
「なら、食べないでおこうかな。可愛い魔女の悪戯が、どんなものなのか興味があるしね。」


そう言ってウィンクをしたところで、強い力で肩を掴まれた。
遠慮のない力加減、ちょっと注意を促す程度のものではない、明らかに。
この野蛮さには大いに心当たりがある。


「シュラ。肩、痛いんだけど?」
「当たり前だ。痛いように掴んでいる。」
「そんなにキリキリするな。今夜はパーティーだろう。とはいえ、その仮装にはピッタリだけどね、キミのムスッとした顔はさ。」
「貴様が飛鳥に色目を使ったりしなければ、キリキリする事もない。」


飛鳥の悪戯を受けて良いのは俺だけだ。
ドラキュラ姿のシュラはそう言い放ち、ムスッとした表情のままで鼻をフンッと鳴らした。
全く……、この勢いでは飛鳥の手作りスイーツも独り占めしそうだな。
尤も、彼が独り占めしてしまえば、お菓子の食べられなかった私は彼女の悪戯を受ける機会を得る事になるけれど。


「パンプキンプリンかな? 良い香りだね。」
「うふふ。今回のは自信作なの。見た目も可愛いでしょ?」


小さく細いガラスの器には、鮮やかな黄色いプリンが詰まっていた。
その上に真っ白なクリームが敷かれていて、横から見ると黄色と白のグラデーションがとても綺麗だ。
しかも、ハロウィンという事もあって、白いクリームの上には可愛いイラストがキャラメルペンで描かれている。
お化けとコウモリ、そして、ジャック・オー・ランタン。


「……これは?」
「黒猫さん。可愛いでしょ、魔女の帽子も被っているの。」
「黒猫ね。まぁ、確かに可愛いけど……。」


特に意味はないが、チラとシュラを見遣る。
奴はポリポリと何かを貪り食べていた。
全く、コイツはお菓子を食べる事と、身体を鍛える事にしか興味がないのか。


「サツマ芋のカリントウだ。美味いぞ。お前も食うか?」
「別に分けて欲しいとか思ってないよ。食べ過ぎだろうと、呆れて見ていただけだ。」
「これくらい普通だ。食べ過ぎてはいない。」
「一般男子としては食べ過ぎだし、聖闘士としても食べ過ぎだよ。飛鳥が血糖値の心配するのも無理はないな。」


ドラキュラならドラキュラらしく、赤い血、いや、トマトジュースかブラッドレンジジュースでも飲んでいれば良いのに。
何処の世界に、サツマ芋のカリントウを貪り食べる吸血鬼がいるというんだ?


「ディーテも早く着替えてね。衣装、持って来ているんでしょう?」
「あぁ、分かった。向こうの部屋を借りるよ。」
「早くしないとプリンが無くなるぞ。」
「残しておいてくれないのかい? 私は客人なのに。」
「大丈夫。ディーテの分は、ちゃ〜んと取って置くから、ね?」


ニコニコ笑顔でウィンクする魔女の飛鳥と、それが原因で益々不機嫌に拍車が掛かる吸血鬼のシュラ。
相変わらず正反対のカップルだと思いながら、私は着替えのために奥の部屋へと向かった。



いつものメンツでハロウィンナイト



(悪ぃ、遅れたわ。お、幼児体型の魔女発見。で、そっちのドラキュラはハマり過ぎだろ、本気で血ぃ吸いそうじゃねぇか。)
(お前は悪魔姿か、デスマスク。)
(うおっ?! 吃驚した! てか、なンで着物だ、アフロディーテ?)
(これはお菊さんと言って、日本じゃ有名な幽霊なのだ。皿がいちま〜い、にま〜い……。)
(怖えぇぇっ! 似合い過ぎだろっ!)



‐end‐





こちらの山羊さまは黒猫山羊さまとは関係ありませんが、ちょっとだけ、ねw
あと、お魚さまにお菊さんの格好させてみたかったんです、それだけですw

2017.10.31



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