petit four的二日酔いブレックファスト



目が覚めると見慣れぬ部屋の天井が見えた。
見慣れてはいないが、見た事がない訳ではない。
ゴロリと身体を反転させて枕に顔を埋める。
枕カバーとシーツからは、柔軟剤の匂いに混じって仄かに甘い香りが漂ってくる。
あぁ、そうか……、シュラの宮か。
ズキズキと痛む眉間を押し、軽く頭を振ってベッドから下りた。


廊下を進みリビングへと入る。
キッチンの方からは準備途中の朝飯の匂い、ベーコンを焼く香ばしい匂い。
覗き込んでみると、フライパンを揺する悪友の後ろ姿が見えた。
昨夜、俺に酒を勧めたヘナチョコ女の姿はない。


「……よお。」
「起きたか、デスマスク。もう直ぐ朝飯が出来る。そっちで座って待っていろ。」
「飛鳥は?」
「まだ寝てる。飯が出来たら起こすつもりだ。」


そりゃまた優しい彼氏なこって。
酔っ払いの彼女は寝かせたままで、自分が朝飯の準備もモーニングコールもやってやろうってンだからな。
しかも、そんな優しい彼氏が任務に行っている間に、自分は彼氏の友人を泥酔させて楽しンでたってンだから、ヘナチョコのクセに随分と神経の図太い女だぜ。


「俺が帰ってくる前にサクランボ酒の味を確認しておきたかったそうだ。まぁ、それはどうでも良い。お前を味見の相棒に選んだ事は腹立たしいが、その分、たっぷり仕置きをしたからな。」
「あ? 仕置き?」
「分かるだろう。それとも詳しく聞きたいか?」


あぁ、なるほど、ソッチの仕置きね。
どおりで飛鳥が好き勝手に酒盛りしてた割には、朝飯作ってやったり何だりと、随分な御機嫌具合だと思った。
何だかンだでイイ思いをしたって事だな、昨日の夜は。
つか、俺が近くの部屋で寝てるってのに、良くもまぁ平然とヤれるよな。
普通、無理だろ、遠慮するだろ。
フォークを持ってダイニングに現れたシュラを、頭痛のするこめかみを押さえながら俺は訴えるように見上げた。


「頭痛ぇ。悪ぃ、コーヒー淹れてくれや。」
「自分で淹れろ、と言いたいところだが、昨日は飛鳥が迷惑掛けたしな。特別だ、俺が淹れてやろう。」
「濃いめで頼むわ。あ、ブラックな。」


コクリと頷いてキッチンへと引き返したシュラは、程なくしてコーヒーカップを両手に戻ってきた。
続いて運ばれてくる朝食。
お、今朝はイギリス風のブレックファストか。
炒り卵にベーコン、マッシュルームとハッシュドポテト、それにトースト。
俺はブラックコーヒーだが、シュラはカフェ・オ・レ、流石は甘党山羊。
そんなシュラは一口だけカフェ・オ・レを啜ってから、飛鳥を起こすために姿を消した。


「飛鳥はシャワーを浴びてから来るそうだ。冷める前に先に食おう。」
「すまねぇ。美味そうな朝飯を前にして悪ぃンだが、俺はこンなに食えねぇぞ。こりゃ二日酔いだわ。」
「そうか。なら、これをやろう。」


差し出されたのはグラード製薬印の栄養ドリンク。
夜が更けた頃に、執務室に籠もりっ放しのサガがゴクゴク飲んでるヤツだ。
しかし、シュラがなンでこンなモン持ってンだ?
体力自慢の鍛錬好きには必要ねぇだろ。


「アイオロスから貰った。」
「アイオロス? なンでヤツが?」
「恋人持ちには必需品だろうとな。夜の体力はあればあるだけ良いと言っていたが。」
「アホだろ、アイツ……。」


人の色恋をアレコレ余計な世話を焼く暇があるなら、自分の恋人でも見つけろってンだ。
つか、コイツに夜の体力増強なンて必要ねぇだろ。
飛鳥は一般人だぞ。
体力も精力も有り余ってンだから、栄養ドリンクなンぞでシュラがギンギンになったら、飛鳥の身体が持たなくなンだろが。


「分かっている。だから、飲んだ事はない。」
「それで余ってンのか。」
「だが、僅かだが数が減っている。多分、たまに飛鳥が飲んでいるのだろうな。」
「オマエ……。無理強いし過ぎなンじゃねぇの、それ。」


シュラが任務に出て行った後、こっそりひっそり栄養ドリンクを飲む飛鳥の姿が目に浮かぶ。
目の下のクマと、ゲッソリとした顔もな。
俺の言葉の意味が分からないのか、小首を傾げている山羊のヤロウの顔を見て、俺は呆れるばかりだった。



苦いコーヒーが痛む頭に沁みるわ



(あ、デスさん、おはよう。爽やかな朝ね。)
(全く全然これっぽっちも爽やかじゃねぇだろが。どういう神経してンだ、オマエ。)
(ええっ?! 美味しいお酒だったじゃないですか、ヒドい……。)
(貴様、俺の飛鳥を貶すとは、斬られたいのか?)
(あー、うっせぇうっせぇ。)



‐end‐





『酔っ払い果実酒』の翌朝の話です。
本当は、チュロスにホットチョコレートという激甘な朝食を出されてゲンナリする蟹さまが書きたかったんですが、それだと余りにも山羊さまの甘党が行き過ぎるので止めましたw

2017.09.19



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