petit four的酔っ払い果実酒



夜もとっぷりと更けた頃。
疲れて重くなった身体を引き摺って帰り着いた磨羯宮。
既に眠っているだろうと思っていた飛鳥は、どうやらまだ起きているらしく、プライベートルームから細い灯りが漏れていた。


「……ただいま。」
「あ、シュラだ〜。お帰り〜。」


リビングのドアを開けた瞬間に、ギュムッと抱き付かれた。
こういう時はアレだ。
間違いなく酔っ払っている時だ。
飛鳥は酒に酔うと(俺限定で)抱き付き魔に変化するのだ。


「起きてたんだな、こんな時間まで。飲んでいたのか?」
「うふふ〜、そうなんですよ〜。美味しいお酒を飲んでいたんですよ〜。」


部屋の中にはアルコールの匂いが充満している。
しかも、甘くフルーティーな香りだ。
果実酒でも飲んでいたのだろうか。


だが、たった一人で?
自分一人だけで、こんなに酔うまで飲んでいたというのか?
手加減なしに俺の腰に抱き付く飛鳥の頭を撫でながら、部屋の中を見回す。
と、ソファーの下に死体のように転がる人間らしきものが視界に映った。


「……デスマスク?」
「一人で飲んでもつまらないから、付き合ってもらったの〜。」


あのデスマスクが泥酔して寝落ちるなど珍しい。
しかも、飛鳥の酌を断れないような優柔不断な男ではないだろう、コイツは。
それがこうなるまで飲んだという事は、どれだけ強い酒を飲まされたんだ?


「精々、二・三杯ですよ〜。でも、デスさんは既にヘロヘロだったから〜。」
「ん、ヘロヘロ?」


酔いの回った飛鳥の説明は要領を得なかったが、その話を筋道が通るように纏めると、こうだ。
デスマスクはこの数日間、サガに取っ捕まって、全く寝ずに執務の手伝いをさせられていたらしい。
やっと解放されてフラフラの体で教皇宮から下りてきたデスマスクは、疲れて夕飯を作る気力もなかった事もあり、飛鳥の「夕食を一緒に如何です?」の誘いに喜んで乗った。
そんな状態だったからか、普段なら酔いもしない程度の酒でも、こんなザマを晒す程に効いてしまったようだ。


「不眠不休で働いてきた相手に対して一服盛るとは、随分な鬼畜だな。」
「一服だなんて人聞き悪い〜。お酒を勧めただけですよ〜。夏に浸けたサクランボ酒の味見〜。デスさんの舌なら確かだと思ったんです〜。」
「分かったから、少し腕を離せ。」


被害者なデスマスクを、いつまでもココに転がして放置しておく訳にもいくまい。
だが、客用寝室に運ぼうにも、飛鳥が腰に抱き付いていては無理というもの。
振り解こうとしたが、酔っ払い飛鳥は首をブンブン振って、一向に離れようとはしない。


「い〜や〜!」
「離せ、飛鳥。さもないと……。」
「さもないと?」
「このままココで押し倒す。酔って寝ているとはいえ、直ぐ傍にデスマスクがいる状況で、あんな事やこんな事をされても良いのか?」
「分かりました、離します。」


酔っ払い状態の飛鳥でも、いつデスマスクが目覚めるか分からない状況での半羞恥プレイは許容出来ないらしい。
それまでの粘りは何処へやら、あっさりと腕を解いた。
しかし、デスマスクを客用寝室のベッドに放り投げてからリビングに戻ってくると、飛鳥は再びサクランボ酒をチビチビと舐めるように飲んでは、一人、ケタケタと笑っている。
この様子では、反省の色は全くないな。


「デスマスクとはいえ俺の居ない間に、男を連れ込むとはな。良い度胸だ。」
「あ、やだ〜! 返して〜!」


華奢な手からグラスを奪い取ると、パタパタと両手を振って駄々を捏ね出す飛鳥。
これは本気でお仕置きが必要か。
奪い取ったグラスの中身、仄甘いサクランボ酒を一気に煽ると、俺は飛鳥の腰を引き寄せて、ニヤリと深く意味深な笑みを浮かべたのだった。



夜更けの果実酒の甘い事、甘い事



(お酒〜、私のお酒を返して〜。)
(返しても良いが、その後にガッツリお仕置きするぞ。)
(えっ?! お、お仕置き?!)



‐end‐





蟹さまが死体要員(違う)な件w
たまには夢主さんを酔っ払わせてみたかっただけです、それだけです。

2017.09.17



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