petit four的映画日和



オマエ、邪魔だから早く帰れ。
そうデスマスクに言われて、それに対して言い返す事もせずにトボトボと磨羯宮へ戻っていく俺。
しかし、情けない、と思う余裕すらなく、俺の心は不安と焦燥で満ち満ちていた。


事の発端は数日前に遡る。
飛鳥が突然、映画に行きたいと言い出したのだ。
しかし、彼女の予定を見ると、アテナからのスイーツ作りの依頼が入っていないのは、今日だけだった。
俺はその日、朝から夕方まで後輩聖闘士達の指南役が割り振られていた。
他に交代出来る者はいないか、デスマスクだけで何とかならないか、色々と当たってみたのだが、元からの運が悪いのか、俺の普段の行いが悪いのか、誰も手を挙げてはくれない。
ならば、任務明けの休暇中だったアイオリアに代わってもらおうとしたのだが、何かを察知したヤツの兄・腹黒性悪教皇補佐に、黒い笑顔で阻まれてしまった。


という訳で、飛鳥の休日の付き添いはアイオリアに任せ、俺は後輩指南に精を出していたのだが。
飛鳥がアイオリアと出掛ける午後になってから、こう、何をやっても手に付かないというか、心配で気もそぞろになるというか。
気持ちがソワソワとして落ち着かなくなっていった俺。


アイオリアはアフロディーテやミロとは違う、彼女に横恋慕もしていなければ、うっかり手を出してしまったり、押し倒したり、襲ったりなどはない筈だ。
そうは分かっていても、やはりな。
飛鳥がどうしても見たいと強請った映画だ、女性向けの内容だろうし、その内容に充てられたアイオリアが、彼女を意識し出したとしても何ら不思議じゃない。
アイツはそういう暗示に掛かり易そうだしな。
心配だ、あぁ、心配だ。
などと延々と考えを巡らせながら動いていた俺の心の中など、あっさりすっかり見透かしたデスマスクによって、結局、夕方前に闘技場を追い出されてしまった。


「ただいま〜。って、あれ?」
「……何だ?」


御機嫌で磨羯宮へと帰ってきた飛鳥に向けた俺の顔は、かなり強張っていたと思う。
自分でも不機嫌が顔に現れているだろうと自覚はあったし、ただでさえ鋭い目付きが更に尖って、飛鳥が怖がるのではないのかとも思っていた。
が、彼女は俺の不機嫌な表情など気にも留めず、目を真ん丸にして俺の横に腰を下ろし、ジーッと顔を覗き込んでくる。


「夜前までは後輩指南で帰れないって言ってなかった?」
「別に……、早く終わっただけだ。」
「ふ〜ん……。」


デスマスクに追い返されたとは流石に言えずに適当に誤魔化したが、大して気にならなかったのか、それ以上の追及をする気は飛鳥にはなかったようだ。
直ぐに腰を上げ、鼻歌など歌いながら奥の部屋へ着替えに向かう。
その後を追い、部屋着に着替える飛鳥の姿をボンヤリと眺めながら、今度はベッドに腰を下ろした。


「何を観てきたんだ?」
「さぁ、何でしょう? 何だと思う?」
「そうだな……。やはりラブストーリーか?」


そんな微塵も面白味のない映画を観て、御機嫌になっているというのなら、飛鳥には悪いが俺の腹の虫が治まらない。
彼女の付き添いをしてくれたアイオリアにも悪いが、怒り狂って暴れてやろうかとも思う。


「違うよ。そんな楽しくもない映画は観ないって。」
「じゃあ、何を観たって言うんだ?」
「ジャッキーだよ、ジャッキー! 知っているでしょ、ジャッキー! 香港のアクションスター! 大好きなの、私!」


……ジャッキー?
え、まさか、飛鳥がアイオリアと二人で、仲良くアクション映画を観てきたというのか?
いや、しかし、そんな馬鹿な話が……。


「スタントなしのアクション、今回も凄かった〜。楽しかった〜。あ、アイオリアも楽しんでたよ。」
「そ、そうか……。」
「シュラも一緒に観に行けたら良かったのにね。」
「あ、あぁ、そうだな……。」


忘れていた。
俺の恋人は多少、いや、かなり変わっているんだった。
溜息が零れると同時に思い浮かぶのはデスマスクの顔。
夜の戦闘訓練を、アイツ一人に押し付けてしまった。
今度、菓子折り(飛鳥特製の)でも持って、御機嫌取りに行かなければな。



気を揉んで損した!



(アイオリアは中国拳法は分からないって言っていたけど、シュラは?)
(俺は格闘技という格闘技は全て齧ったから、ある程度は分かるぞ。昔、暫く五老峰でも修行したしな。)
(じゃあ、シュラもジャッキーのアクション、出来るかな?)
(聖闘士なんだから当然だろう……。)



‐end‐





ジャッキー好きです、私が(聞いてないよ)
新作、観に行きたいんですけど行けなさそうなので、かわりに夢主さんに行ってもらったとか言いますw

2017.09.05



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