petit four的桜日和



暖かな日差しを浴び、ノンビリと下っていく十二宮の階段。
休日の風は心地良く頬を撫でていき、私は首筋に絡む髪の毛を払い、目的の場所へと向かう。
同じく休日の悪友は、この気持ちの良い春の日を、どう過ごしているのか……。


「やぁ、良い天気だね。」
「……ん?」
「こんにちは、ディーテ。一緒に、どう?」


辿り着いた磨羯宮。
宮主のシュラと、その恋人である飛鳥は、窓の前のフローリングの上に座布団を並べ、日本茶を啜っていた。
二人の間には重箱が、一段、二段、三段……。


「桜餅、作ったの。聖域じゃ桜は咲かないけど、雰囲気だけでも、ね。」
「美味いぞ。」


甘党の悪友は、次々に桜餅を手に取っては、モッシャモッシャと食べている。
花より団子の言葉を体現しているような山羊の姿を、ニコニコと眺めてはお茶を啜る飛鳥。
部屋には桜の葉の独特な香りが漂い、ココがギリシャである事を忘れてしまいそうだ。


「まるで日本に来たみたいだ。ココだけ別世界だね。」
「そう? フローリングにお座布団だなんて、風情も何もない気がしたけれど。」
「飛鳥の和菓子があれば、それだけで十分に日本風だ。」


モグモグと口を動かしながら喋る山羊。
行儀が悪いぞ、シュラ。
話す時は、口の中のものを飲み込んでからだと教わらなかったか?
親に……、いや、私達の躾には特に厳しかったサガに。


「厳し過ぎたのが悪いんじゃないのか。その反動で、蟹もああなったのだ。」
「だから、飲み込んでから話せと言っているだろうに。」
「そんなに焦らなくても、桜餅は消えて無くなったりしないよ、シュラ。」


コトリと差し出される湯呑茶碗には、和菓子にピッタリの緑茶。
ズズッと啜ると、その熱さにホロリと身体も心も解れていく。
桜餅は……、餡子が苦手なので遠慮をさせてもらった。


「花見がしたいなら、私の宮に来れば良いのに。」
「う〜ん……。でも、薔薇と桜じゃ違い過ぎるもの。桜餅にも合わないだろうし。」
「薔薇園のテラスじゃ情緒がない。花見とは言えん。」
「そうだね。紅茶とスコーンのアフタヌーンティーなら似合うけれど、流石に桜餅と緑茶ではね。」


遠慮のないシュラの言葉に苦笑いする。
確かに、薔薇に囲まれた中で桜餅というのは、違和感しかないだろう。
適材適所と同じ、それぞれに相応しい場所があるという事だ。


「薔薇園でのお花見は、また別の機会にね。マカロンでも作って持っていくから。」
「苺タルトも良いんじゃないか?」
「薔薇の形をしたマドレーヌは、どう?」
「ロールケーキはどうだ? 苺を使った。」
「花見と言うか、スイーツの事しか考えてないね、キミ達……。」


花見など既に眼中にない。
飛鳥が作るスイーツがあれば、シュラはそれだけで良いのだ。
寧ろ、シュラにとっては、飛鳥のスイーツが『花』なのだろう。


「お前の薔薇など、見飽きているからな。」
「ほう。なら、今ココで咲かせて上げようか? キミの胸に真っ白な薔薇を。」
「わわっ?! 物騒な事は止めて、止めて!」


慌てて止めに入る飛鳥の顔は、本気に受け止めていると分かる焦った表情。
私は彼女に向かって、ニッコリと微笑む。
勿論、「冗談だ。」との一言を加えて。


「キミの前で流血沙汰は起こさないさ、飛鳥。」
「本当に?」
「あぁ。いくら山羊が憎かろうとね。」


その代わり、彼女が見ていないところで流血沙汰になるかもしれないけれど。
そうなれば、薔薇の花吹雪とシュラの血飛沫が入り交じる見事な花を咲かせてやるさ。
と言っても、内輪で争いなど、それこそサガに厳しく叱られるだろう。
その争いの種が、可愛い女の子の取り合いだと知ったら、尚更ね。



花より可憐な彼女だから



(あぁ、お茶が美味しい。)
(ホント、緑茶は美味しいわね。)
(桜餅の方が美味い。)
(キミは糖分の取り過ぎだ、シュラ。)



‐end‐





リアルで桜餅を作ったので、桜餅のお話をと思ったら、何故かこんな話に……(汗)
山羊さまはこの後、桜餅の食べ過ぎでお腹いっぱいになってしまい、夕食が食べられなくて夢主さんに怒られるんだと思いますw

2017.04.04



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