petit four的春のティータイム



後輩聖闘士達への指導と修練を終え、やや疲れた足取りで上る十二宮。
麗らかな春の日差しは暖かいが、私の心は余り晴れやかではなかった。
ハァッと溜息一つ。
せめてもの癒しに、可愛い飛鳥の姿でも拝んで行こうか。
丁度良い事に時刻は十五時を少し過ぎた頃。
上手く行けば、飛鳥のティータイムに誘ってもらえるかもしれない。


「あ、ディーテ。お疲れ様。」
「これはこれは、随分と可愛らしい格好だね。何処かにお出掛けかな?」


訪れた磨羯宮のプライベートルーム。
飛鳥は仄かにグレー味を帯びたピンクの、ふわりとしたワンピースを身に着けていた。
それに濃い落ち着いたグリーンのストールを肩から羽織り、白に程近いベージュ色をしたエナメルのパンプスとバッグ、明らかに余所行きの身なりだ。
あのピンク……、スモーキーピンクと言うのか。
シックで暗めな大人のピンクは、飛鳥に良く似合っている。


「桜色っていうのよ、綺麗な和の色でしょ。」
「そうか、桜色。どおりで飛鳥に良く似合うと思ったよ。」
「またまた、そんなお世辞。」


クスクスと笑う飛鳥。
今日はメイクも華やかで明るい色味を選んでいる。
ピンク色のチークが、元からのベビーフェイスを、より愛らしく見せていた。


「今から沙織さんとお出掛けなの。」
「へぇ、何処に行くんだい?」
「ホテルグラード・アテネのティールーム。美味しい苺が山盛りのタルトを頼んであるから、二人でお喋りしながらいただく予定なのよ。」


シュラは二日前から外地任務に出ている。
戻ってくるのは、予定では三日後の事。
飛鳥がションボリと寂しそうな様子を見せていたので、アテナが気を利かせてお茶に誘ったのだろう。
私は一足遅かったという訳か。


「それは残念。」
「どうして?」
「だって、キミとお茶をするチャンスを失ってしまったからね。」


飛鳥は申し訳なさそうに眉を下げた。
彼女を責めるつもりはなかったのだが、ちょっと言い方が意地悪だったか……。


「キミが気にする事はない。突然、押し掛けた私が悪いんだから。先に、ちゃんと約束を取り付けたアテナが正しいのさ。」
「でも、折角、来てくれたのに……。」
「自分の宮に戻る途中で立ち寄っただけだよ。実を言うと、今はクタクタに疲れていて、直ぐにでも休みたいくらいなんだ。」


半信半疑で見つめてくる飛鳥に向かって、私はニッコリと微笑んでみせた。
少しだけ疑いは解けたようだが、それでも、未だ眉を下げたままの飛鳥に近付くと、テーブルの上に乗っていたバッグを持ち上げ、彼女へ手渡した。


「折角だから、写真でも撮って上げようか?」
「……え?」
「そんなに可愛い服装をしているのに、シュラに見せないのは勿体ないだろう? カメラはあるかい?」
「デジカメなら、そこに……。」


背後のダイニングを指で示す飛鳥。
完成したスイーツの記録用に使っている小さなカメラが、ダイニングテーブルの上に乗っていた。
電源を入れ、データを流し見ると、鮮やかなフルーツ色に彩られた春のスイーツ画像が、次々と現れる。


「どれも綺麗で、美味しそうだね。」
「まだ試作品ばかりなの。」
「これで未完成? 十分過ぎる出来だと思うけれど。」


私は飛鳥をテーブルの横に立たせて、パシャリと一枚、撮影をした。
テーブルには、昨日、私が持ってきた赤い薔薇が花瓶に活けてあり、春色コーディネイトの彼女の背景には良く合っている。
シュラに見せるためとは言ったものの、あんな朴念仁男に見せるには勿体ないと思う気持ちが高くなり。
このデータは、後でコッソリ私がいただいておこうと、悪い企みが頭を過(ヨギ)った。



桜色の妖精を独り占めしてしまおうか



(ディーテ、どうしたの?)
(っ?! あ、いや、何でもないよ。戻ってきたら、苺タルトの感想を聞かせてくれるかい?)
(えぇ、勿論。)
(どうやらメモリーカードを抜いた事は気付かれてないようだな……。)



‐end‐





この後、コッソリと画像データだけを抜き、夢主さんが沙織さんとのデートから戻ってくる前に急いで画像を抜き出した後、カメラにカードを戻しておくという、お魚さんらしからぬ悪い事をやってみせると思いますw

2017.04.11



- 22/50 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -