petit four的優雅な午後



休みの日の午後。
初春の暖かな風に吹かれながら、私は自慢の薔薇園で、黙々と手入れに没頭していた。
数日、任務で宮を空けていた間に、僅かばかり元気を失っていた薔薇達に、自分の小宇宙を少しずつ少しずつ注ぎ込みながら、丁寧に作業を続けていた、その時。


「……ディーテッ!」


双魚宮のテラスから、こちらへと大きく手を振る飛鳥の姿を見つけた。
今日は真っ白なブラウスに、たっぷりとした若葉色のロングスカート、それに、鮮やかな黄色のカーディガンを羽織った愛らしい服装だった。
まだ肌寒さの残る春の薔薇園に降り立った、やんちゃで可愛い妖精かな。
などと思いながら、私は飛鳥に手を振り返す。


「もう三時を過ぎてるわ。ディーテも一息入れなきゃ。」
「いつの間に、そんな時間になってたんだろう。庭仕事をしていると、時間を忘れてしまうよ。」


庭仕事用の手袋を脱ぎ、首に巻いていたタオルを外しながら、テラスへと近付く。
飛鳥はテラスのテーブルに、ティーカップとスイーツ用の食器を並べているところだった。
この宮のキッチンなら好きに使ってくれて構わないと、飛鳥には言ってある。
既に飲み頃となっていた紅茶をカップに注ぎ、彼女は席へ着くように私を促した。
座ると同時に差し出されるのは、温かなおしぼり。
至れり尽くせり、飛鳥が私の恋人でない事が酷く残念でならない。


「スコーンを焼いてきたの。一緒に食べよう。」
「……シュラは?」
「急な任務に呼ばれて、夜まで帰って来ないんだって。だから、今日はディーテと二人でゆっくりお茶が出来るわ。」


恋人よりも私と過ごすティータイムを楽しみにしてもらえているとは。
それだけで嬉しい気持ちになって、スコーンにジャムとクリームをたっぷりと乗せて頬張る飛鳥を愛おしく眺める。


「……何、ディーテ?」
「ん?」
「私の顔、そんなにジロジロと眺めて。」
「ふふっ。随分と大きな口を開けて頬張っているなと思ってね。」
「ディーテの前で、今更、畏まっても仕方ないでしょう? 美味しいものはガッツリといかないと。」


自分で自分の作ったスイーツを『美味しいもの』と、照れもせずに言っちゃうところが、また可愛いらしい。
躊躇いなく、淀みなく、恥ずかしがりもせずに堂々と出来るという事は、それだけの自信を持って作っているという事に他ならない。
そのスイーツを贅沢に味わう事が許されている私は、やはり幸せ者なのだろう。


「ディーテの薔薇園は、いつ来ても綺麗ね。」
「飛鳥だって、いつ見ても綺麗だけど。」
「またまた、そんな事を言っちゃって、もう。」
「お世辞じゃないさ。本当だよ。キミは素晴らしい女性なんだから。」


甘いものにしか目が向かない朴念仁の山羊には勿体ないくらいにね。
彼女と出逢ったのが、どうして山羊より後だったのか。
私の方が先だったなら、絶対に飛鳥は私のものだったに違いないのに……。


「今からでも遅くはない。私に乗り換えた方が、キミのためだと思わないかい?」
「それ、シュラが聞いたら、キレて殴り込んで来るわよ、きっと。」
「受けて立つさ。アイツさえ倒してしまえば、飛鳥が私のものになるのだからね。」


少しも本気に受け取っていないのか、飛鳥はクスクス笑いながら紅茶を注ぎ足す。
シュラと闘り合っても良いと思う程に、私が本気で彼女を想っているのだと知ったなら、一体、どれだけ驚くだろうか。
口の端にクリームを付けた可愛い妖精は、そんな事、考えもしないのだろうな、きっと……。



優雅な午後に、再燃する恋の炎



(シュラ、私はもう一度、キミに宣戦布告すると決めたぞ!)
(……何の話だ?)
(奪われた後、地団太踏んだところで遅いのさ。私が本気になれば、キミなど虫ケラに等しいからな。)
(だから、何の話だ、アフロディーテ?)



‐end‐





魚さま、再び横恋慕するの巻w
自分の気持ちを抑えて、妹のように可愛がっていたけれど(夢主さんの方が年上ですが)、山羊さまの余りの朴念仁っぷりに、傍で見ていてイラ付いてきたらしいですよ。

2017.03.21



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