petit four的七夕の夜



執務が終わり次第、磨羯宮に集合!
という訳の分からん置き手紙による呼び出しを食らって、渋々、歩いて向かう十二宮の道のり。
時間が時間だけに、夕飯でも食わせてもらえンならラッキーだと思う事にして、まだ明るい夕空の下を進む。
夕飯の時間には暗くなってるだろうかと意味のない事を考えている間に、目的の場所へと辿り着く。


「あ、デスさん、いらっしゃ〜い。執務、お疲れさま。」
「……何なンだ、オマエ等。その格好は。」


出迎えた飛鳥と、その背後に佇む悪友二人。
明らかにニヤニヤと歪んだ口元は、如何にも悪巧みを考えてますといった様相。
だが、それ以前に、そンなヤツ等の装いが、俺の目を惹いた。
浴衣と言うンだったか、日本の夏の和服の。
飛鳥は兎も角として、シュラやアフロディーテまでもが、その浴衣とやらに身を包んでいるとは、どうした事なのか。


「ふふっ、浴衣ですよ。どうです? 素敵でしょ? 綺麗でしょ?」
「ほら、蟹。呆然と見惚れてないで、早く飛鳥を褒め称えるんだ。」
「煩ぇよ。間違っても見惚れてねぇし。つか、なンで俺が褒め称えにゃなンねぇンだよ。」
「まさか、お前。浴衣姿の飛鳥の色気に、邪(ヨコシマ)な考えを抱いた訳ではあるまいな?」
「ウゼぇ、山羊。黄泉比良坂に落ちようが、ヘナチョコ女に欲情なンてしねぇから安心しろ。」


意味不明に突っ掛かってくるシュラは、夜空に星を散りばめたような柄の浴衣を、飛鳥と色違いの揃いで身に着けている。
一方、至極ご満悦な顔のアフロディーテは、白地に青一色の細かな薔薇模様が散るシックな浴衣姿だ。
一体、何なンだ?
仮装大会でもするつもりなのか?


「知ってます? 今日は七夕さんなのです。」
「あぁ、そういや昔々に、そンな話を聞いた事あったような……。」
「折角の七夕だ。皆で星を眺めながら飲み食いするのも悪くないだろう。テラスに食事と酒を用意してみた。」
「で、折角ついでに浴衣でも、と思いまして。ほら、デスさんのも用意してありますよ。」


ババンと差し出されたのは、浴衣に似て非なる衣類。
筒状の袖、上下に分かれた作り、細身のハーフパンツのような下衣。
そして、何より一番、俺の目を惹いたのが、その模様……。


「なンだぁ、この蟹柄は?!」
「可愛いだろう。キミのために特別にあつらえてもらった。喜べ、デスマスク。」
「喜べるかぁ! バカにしてンのか、ゴラ!」
「日本では赤い金魚柄は子供用だと言うが、赤い蟹柄というのも子供らしく可愛くて良いではないか。」
「俺のドコが子供だ、クソ山羊が!」


沸き上がる怒りに任せてシュラの胸倉を掴み上げると、折角、綺麗に着付けたのだから止めてと、慌てた形相で飛鳥が割り込んでくる。
乱れた浴衣の襟を直して、フンと鼻を鳴らすシュラ。
ニヤけた笑みを浮かべて、俺等の遣り取りを眺めているアフロディーテ。
そして、背後からゴソゴソと何かを取り出す飛鳥。
正直、溜息しか出ねぇ。
何なンだよ、一体……。
何がしてぇンだよ……。


「はい、こっちが本物のデスさんの浴衣ですよ。格好良いでしょ? 勿論、蟹柄甚平は冗談だけど、沙織さんが特別にあつらえてくれたんだし、部屋着として活用してね。夏は涼しくて心地良いから。」
「お、おう……。」


差し出された浴衣は、黒地にリアルなドクロが浮き出た、なかなか洒落た柄のもの。
つか、こうも奇抜な模様なら、俺くらいのハイレベルな男じゃねぇと、そう簡単には着こなせねぇだろうな。
シュラもアフロディーテも、それなりに似合ってはいるが、着こなしと着崩しのレベルを考えりゃ、俺には到底、勝てねぇだろうぜ。


「また、蟹の自画自賛が始まったよ。」
「良い、放っておけ。ヤツの着付けが終わったら、直ぐに飲むぞ。ビールが良い具合に冷えている。俺は飛鳥の浴衣姿をつまみに、目一杯、飲みたい。」
「蟹の自画自賛の次は、山羊の色惚けかい。ま、飛鳥の浴衣姿が最高のおつまみだってのには、賛成だけどね。」


悪友共があーだこーだと抜かしている間に、アッサリ服を引ン剥かれた俺は、飛鳥の手でテキパキと浴衣を着せられていく。
この後に待っているのは、星空の下での騒々しいビールパーティーだ。
ま、疲れ果てた一日の終わりには、こういう阿呆で下らねぇドンチャン騒ぎってのも悪かねぇか。



星よりビール!
七夕なンざ関係ねぇ!



(あ、これ葛饅頭を作ってみたの。食べて、食べて!)
(あぁん? ンなモン、ビールのつまみになるかよ。)
(いや、これはこれで美味いぞ、もぐもぐ……。)
(相変わらずの雑食山羊だね。)



‐end‐





七夕にかこつけただけの、飲ん兵衛達の華麗なる飲み会の図w
多分、夜が更けるにしたがって強かに酔っ払い、徐々に大騒ぎになっていき、最終的には上の宮の我が師が「騒々しい!」と怒鳴り込んでくるのも時間の問題w
そして、律儀な蟹さまは、蟹柄甚平を部屋着として愛用してると思われますw

2016.07.07



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