11.我が儘は子供の特権



聖域を照らす日差しも傾き始め、空は夕方の茜色に染まりつつある。
この巨蟹宮でも、もう直ぐ夕食時。
イタリア料理もスペイン料理も得意なアイリーンが、俺達家族の腹を満たすために、夕食の準備に忙しくキッチンを動き回っている気配がリビングまで伝わってきていた。
そう、シュラがココを訪れてから、もうかなりの時間が経っているのだが……。


「ちゅらたま、ちゅらたま。」
「何だ、アイラ?」


未だ俺の向かい側のソファーには、シュラが居座っている。
いや、正確に言えば、居座らざるを得ない状況に置かれている。
というのも、アイラがビッタリと貼り付いたまま、シュラを帰そうとしないのだ。
離れるのはシュラが便所に行く時と、アイラが便所に行く時だけ。
後は、ずーーーーーーーっとくっ付いたまま。
本気で死ンでも離さない気なンじゃねぇのか、アイラは。


「ちゅらたま。きょうはアイラといっしょに、よるのごはんたべてくれるの?」
「…………。」


チラと俺の顔を見遣るシュラ。
それは無言の確認。
俺も無言のままコクリと頷く。
どうせ、シュラも食ってく事を見越して、アイリーンは四人分の夕飯を用意してるだろうしな。


「俺もココで夕食を食べていって良いのか、アイラ?」
「もちろんなの!」
「ならば、お言葉に甘えよう。アイリーンの料理は美味いし、アイラと一緒ならばもっと美味い。」


わーい! と声を上げて、シュラの胸に擦り寄るアイラ。
頭を撫でられて目を細める様子は、まるで子猫のようだ。
俺の娘が、何がどうしてこうなった?
このまま成長していったら、確実に完璧なる変態が出来上がっちまう。
こりゃ、マズいぞ。
今からでも何とかしねぇと……。


「ちゅらたま、ちゅらたま。」
「何だ?」
「ちゅらたま。きょうはおとまりしてくれるの? アイラといっしょに、おねんねしてくれる?」
「…………。」


そうきたか、メシの次は泊りかよ。
シュラが、また無言で俺の方を見遣る。
これは、どう返答すべきか。
シュラにアイラを預かってもらうのは頻繁にあるし、ヤツにとっては慣れたモンだろうが、しかしなぁ。
あンま甘やかすと、ホント変態街道まっしぐらになりかねンしなぁ。
多少は厳しく、ここはビシッと「駄目だ!」と言って、ブレーキ掛けてやンのも親の務めだろ。


「あら、良いじゃないですか、お泊り。アイラはずっとシュラ様の事を待っていたんですものね。一晩くらいは一緒にお寝んね出来たら嬉しいわよね。あ、勿論、シュラ様が問題なければの話ですけれど……。」
「巨蟹宮に泊めてもらえるのならば問題はない。俺の宮であれば、暫く不在だったから埃も積もってるだろうし、難しいだろうが。」


ヒョッコリと顔を出したアイリーンとシュラの間で、勝手に話が進められていく。
オイ、コラ!
俺抜きで、何、勝手なコトを抜かしてやがる!
父親の俺が許さねぇ限り、アイラと共寝なんざさせるかっての!


「わーい! ちゅらたま、おとまり、おとまりー!!」
「良かったわね、アイラ。」
「良かったな、アイラ。」


なンで、テメェまで良かったとか言ってンだよ、山羊ヤロウ!
オマエなンかに大事なアイラを任せられるか、ゴラ!
帰れ、帰れ!
山羊の巣に帰りやがれ!


「でちちゃま、うるしゃいの。しずかにしなきゃダメなの。」
「ぁあ!?」
「でちちゃま、かお、こわい……。」


しまった、ついうっかりアイラに向かって凄ンじまった……。
ウルウルと涙目になったアイラの頭を慌てて撫で撫でし、急激に沈んだ御機嫌を取り戻そうと焦る俺。
そうだ、結局は、黄金聖闘士共だけじゃねぇ。
この俺も、アイラの涙には滅法弱いってこったな。



‐end‐





何が何でも山羊さまを離さないんですよ、蟹娘ちゃんは(苦笑)
兎に角、みんなが蟹娘ちゃん大好きなのです、蟹さまも山羊さまも。

2018.06.05



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