12.偽親子



アイオリアが巨蟹宮を訪ねてきたのは、夜九時を五分程過ぎた頃だった。
アイラの事を心配して様子見に来たようだ。
そのワリにはドスドスと派手な足音を立てて部屋に入ってきたモンだから、アイリーンが唇に指を当て、「シーッ。」とジェスチャーで注意を促した。
ハッとして足を止めたアイオリアは、自分の足音の大きさに気付いてなかったンだろう。
罰が悪そうに顔を赤らめ、ボソボソと呟くように話を始める。


「アイラの様子は、どうだ?」
「グッスリと寝ていますよ。昨日までの大泣きが嘘みたいに。」


昨日まではホント酷かったからなぁ。
朝に泣き、昼も泣き、そして、夜泣きが一番酷かった。
泣いて泣いて、大泣きして、大暴れ。
まぁ、親としては地獄だわな。
挙句、その泣き声の激しさに、上の宮からアイオリアまで乗り込んでくる始末。


「デスマスク、貴様! まさかアイラを虐待しているんじゃないのか!」
「アホかっ! 俺が虐待なンかすっかよ! シュラだ、シュラ!」


シュラが帰って来ねぇ、シュラが自分を捨てた、そう思い込んだアイラが一日中、泣き喚いて、それを宥めて寝かしつけるだけでも一苦労。
何せ黄金の血を引く泣き声だ。
破壊力抜群のそれが夜の十二宮に響き渡り、目を鬼みてぇに尖らせたアイオリアが怒鳴り込んで来るのが、ここ数日の決まりきった光景だった。
でもって、現れたアイオリアの顔を見たアイラが、シュラじゃねぇと更に大泣きするまでがワンセット。
そんな事を毎夜、続けてたンだ。
アイオリアもココに顔出すのが日課になっちまったってこったな。


「良かった。やっと、ちゃんと寝るようになったか。」
「シュラにビッタリくっ付いて寝てるわ。超強力磁石かってなくれぇに。」
「引き離そうとしても、絶対にシュラ様から離れませんからね、あの子。」
「寝てもシュラ、起きてもシュラ、シュラ、シュラ、シュラだ。どんだけシュラが好きなンだか。」


抜き足差し足、アイオリアが二人の眠る客用寝室に近付いて、コッソリと中を覗き込む。
ベッドの中で、スースー、クークーと爆睡するシュラとアイラ。
どうしてもシュラと一緒に寝ると言い張ったアイラを寝かし付けるため、共にベッドに潜り込んだシュラだったが、そのまま自分も寝落ちてしまったようだ。
長期の任務明け、久し振りに聖域へ帰還して、シュラも自分が思う以上に疲れてたンだろうな。


「こうして見ていると、何と言うか……。親子みたいだな、あの二人。」
「あぁ?」
「年齢的には恋人とは言えないだろう。やはり親子じゃないのか。」


似てねぇだろうが、全く、全然。
どこが親子だ、どこが?
キリキリと目を吊り上げる俺の後ろでは、アイリーンがクスクスと笑ってやがる。
笑い事じゃねぇっての、アイツが父親でオマエが母親って、凄まじく笑えねぇ冗談だろが。


「そう怒るな。親子みたいにホノボノしていて良いなと思っただけだ。」
「そういうのは心の中だけで思っとけ。」
「そういえば以前、アイオリア兄さまとアイラがソファーでお昼寝していた時は、本当の親子みたいに見えましたよね。」
「っ?!」


そンな事もあったなぁ、そういや。
でっけぇガキと本物のガキが、二人で気持ち良さそうに寝てる姿は、本当の親子と言ってもおかしくないくらいに似ていた。
実際、血の繋がりのある伯父と姪、似ていて当然なンだが。
顔を真っ赤にしたアイオリアは、昼寝を見られてた事が恥ずかしかったのか、親子と言われた事に照れたのか。
いずれにしても、良い具合のからかい材料を見つけた俺は、慌てるアイオリアの姿を見て、逆にニンマリとしたのだった。



‐end‐





ニャーくんと蟹娘ちゃんが日溜りでスース―お昼寝している姿は絶対に可愛いよ、可愛いよ!
それを「ガキだなぁ。」と眺める蟹さまと、ニコニコ見守る奥さんの日常光景も素敵だと思います。

2018.06.17



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