10.大暴れ、のちベッタリ



はあぁぁぁ……。
デカい溜息と共に俺は視線だけを動かして、テーブルを挟んだ向かい側に座る男を見遣った。
いや、正確に言うと、その男ではなく、男の身体にビッタリと貼り付いている『モノ』を見遣った。


「ちゅらたま……。」
「何だ、アイラ?」


まぁ、『モノ』っつーか、俺の娘なンだがな。
昨日まではホントにヒドかった。
日毎に泣き喚く時間は長くなり、昨日は寝てる時間以外は、ずっと暴れ叫んで、手ぇ付けられンかった。
「ちゅらたまは、アイラのことがキラいになったんだ、うわあぁぁぁん!」とか、「ちゅらたまは、アイラをすてて、どこかにいってしまったんだ、びえぇぇぇん!」とか、そンな調子で一日中喚かれて、俺もアイリーンもノイローゼ寸前。
山羊ロスどころの騒ぎじゃねぇだろ、そうまでなると。
ホンッッット、今日シュラが帰って来てくれて助かったわ。
マジ助かった。


「ちゅらたま、つぎのにんむは、はやくかえってきてね。」
「そうだな……。約束はしてやりたいが、聖闘士の任務は様々だ。早く帰還出来る保証はない。すまんな。」
「だったら、アイラもいっしょにいく! アイラもにんむにいくの!」


そりゃ無理だろ。
足手纏いになる以前に、任務地によっては一瞬で死ぬぞ。
四歳児に理解しろってのは難しいだろうが、聖域で生まれて、聖域で育ってるアイラなら、雰囲気を察してもイイ筈なンだがなぁ。
まずシュラへの愛(こう書くと頭痛ぇわ)が何よりも勝って、我が儘全開になっちまう。
つか、シュラも真面目かよ。
適当な事を言って、上手くあしらえよ、相手は幼児なンだからよ。


「ならば、アイラも聖闘士になるか?」
「……それはいやなの。」
「そうか。では、一緒に任務に行くのは無理だな。」
「う〜……。」


半泣きの潤んだ瞳のまま、シュラの胴体にギューッとしがみ付くアイラ。
悔しそうに口をへの字に曲げて引き結んでいるが、それでも、シュラから離れるどころか、更に強く引っ付こうとするのがアイラらしい。
やっとシュラが帰って来たンだから死んでも離すものかという強固な意志だけでビッタリとくっ付いてやがる。
ったく、この我の強さは誰に似たンだか。
少なくとも俺じゃねぇな。
頑固さはアイオロスとアイオリア、そして、アイリーンの三人に共通する性質だ。


「こんどから、ちゅらたまは、みじかいにんむにだけ、いけばいいの。」
「それを決めるのは俺じゃない。サガに言わなければ……。」
「じゃあ、あした、しゃがたまに、おねがいしにいくの。ちゅらたまに、ながいにんむをさせないでくださいって、おねがいするの。」


オイオイ、そりゃ到底無理な話だろ。
と思いつつ、サガならば「よし分かった。アイラの願いだ、叶えてやろう。」とか何とか言って、本気で受け取りそうだから怖ぇ。
いや、サガだけじゃない。
アイオロスも教皇も、皆が皆、本気でアイラの願いを叶えようとしそうだ。
そうなりゃ、俺を含め他の黄金聖闘士の割り当てが増えちまうじゃねぇか。


「オイ、シュラ。それだけは何としても阻止しろよ。イイな?」
「それは難しいと思うぞ。これだけアイラが張り切ってるとなれば……。」


眉を寄せて首を振るシュラ。
今や、そのシュラの胸板に頬擦りスリスリ、うっとり目を細めて猫のように擦り付けて、シュラの横に居る幸せに浸ってるアイラ。
我が娘ながら見事なまでに変態に育っちまってると、俺は頭がズキズキと痛くなった。



‐end‐





何度か呟いてますが、この蟹娘ちゃんは私の化身です(笑)
なので、常に山羊さまに一直線なのです。

2018.05.06



- 10/19 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -