3.嫌われ兄さんの陰鬱



『親バカ』って言葉は良く耳にする単語ではある。
多分、この俺でさえアイラの事になると、華麗なる『親バカ』っぷりを発揮するのは否定しない。
んじゃ、目の前のアレはどうだろう?
正直、親でもねぇのに、親の俺以上に『親バカ』っぷりを披露していやがる。
あぁ、そうか。
親じゃねぇンだから、タダの『バカ』だな、ありゃ。
アイラを膝の上に乗せて、不気味なまでにニッコニコな笑顔を撒き散らしてるアイツは、見事な『親バカ』ならぬ『伯父バカ』っぷりを発動中だ。


「ろすにったま、や……。」
「可愛いなぁ。アイラはホントに可愛い。」


その伯父バカなアイオロスは、昼休憩だか何だか知らねぇが、(毎度の事ながら)突然に巨蟹宮に現れて。
人形のアイラちゃんと山羊のぬいぐるみで遊んでいたアイラを、ほぼ強制的に有無を言わせず膝に乗せたかと思うと、その子供特有のプクプクした頬を指で突っ付き始めた。
最初こそ、顔を背けて、その指を避けていたアイラも、執拗に繰り返されるプニプニ攻撃には辟易してきたらしい。
あからさまに嫌な顔をして、アイオロスの腕ごと指を払った。
が、そんな事ではめげないのが射手座の英雄だ。
後ろから抱っこされた形で座るアイラが逃げられないのを良い事に、右から左からとアイラの愛らしい頬を狙い撃ちする。


「や〜だっ! やっ! ろすにったま、や〜!」
「ん〜? 何で〜? こんなに可愛いのに?」
「や〜! いや〜!」


――ゲシンッ!


遂に堪忍袋の緒が切れたアイラ。
手に持っていた山羊のぬいぐるみで、アイオロスの顎に見事なアッパーを。
そして、反対の手に持っていた人形の足で、アイオロスの金的に華麗なキックを食らわせた。
顎は兎も角、金的の方は意図せずとはいえガッツリと危険領域に入ったらしい。
股間を抑え、全身を震わせて蹲るアイオロス。
その隙を付いて、アイラは膝の上から脱出。


比較的おっとりほわほわした性格のアイラを、こうまで怒らせるとは、流石はアイオロス。
胡散臭さとムカつく度が、断トツで聖域一なだけあるな。
アイラは呆れでモノも言えなくなっていた俺のところまでトテトテと駆けて来ると、ソファーをよじ登って俺の膝の上に這い上がった。
そのまま、俺の胸に顔を埋めて、ギュギューッと強く抱き付いてくる。
あ〜、こりゃ、かなり怒ってンなぁ。
こンなに嫌がって、こンなに不機嫌な様子は久し振りに見た。


「でちちゃまぁ……。」
「おーおー、よしよし。可哀想になぁ。」
「かっ、可哀想なのは、寧ろ、俺だろ……。あ、アレが大変な事に……。」
「自業自得だろ、それは。アイラが嫌がってンのに、止めないオマエが悪い。」
「そ、そんな事を言ったって、アイラが可愛過ぎるんだからさ……。や、止められる訳がないじゃないか……。」


それが身勝手だって言ってンの。
子供が嫌がる事を、執拗にやり続ける大人って、どうよ?
そりゃ嫌われるだろ、決まってるだろ。


「ろすにったま、きらい……。アイラ、いやだっていったもん……。」
「ぐ……。」
「き〜らわれた〜、嫌われた〜♪ ロス伯父ちゃんが、嫌われた〜♪」
「き、嫌われてなどない!」
「ろすにったまなんて、だいっきらいだもん……。」
「うぐっ……。」


アイラは半泣き状態で、俺の胸にグリグリと顔を押し付けたまま、アイオロスの方など見向きもしない。
あ〜あ、こりゃ、もう駄目だわ。
完全に嫌われたわ、ロス伯父さん。


「ど、どうして……。何でだ……。」
「古今東西、しつこいのは嫌われるってな。子供だろうが何だろうが、女ってのは、そういう生き物なンだよ。」
「でちちゃま、ぐすん……。」


全く……、黄金最強で、あのサガよりも鋭くて、掴みどころがない曲者で、そんな男が子供の気持ちもロクに分からないとは呆れる。
眼前で揺れるアイラの頭頂部を撫でてやりながら、盛大な溜息を吐いた俺を見て、アイオロスのヤロウは項垂れたままで教皇宮へと戻っていった。
ありゃ、この後の執務は完全に戦力外だな。
きっと心の中でタップリと反省した挙句、明日の昼には、アイラの好きなジャム入りクッキーを両腕にたんまり抱えて、またこの巨蟹宮へと姿を現すンだろう。
その時、アイラがヤツを許すのか、否か。
ちょっとした見物だぜ。



‐end‐





自分のやりたい事は、どんなに相手が嫌がろうと気にせずに行う、それがロス兄さん故に、小さな子供には意外に嫌がられたり嫌われたりしそうだなと思いました。
きっとリアが小さな時にも、散々、同じ事をしたんだろうね。

2017.12.21



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