2.舌足らずは年のせい



「……ちゃかたま。」
「違うぞ、アイラ。シャカだ。もう一度、言ってみなさい。」
「ちゃかたま。」
「…………。」


それは、特にこれといって何もない火曜の夕方の事。
『シャカ様のところに遊びにいったアイラの、お迎えに行って欲しい』とのアイリーンからのメッセージを受け取り、教皇宮からの執務の帰りに、こうして処女宮に寄ったワケなンだが。
アイラがどうしてシャカのトコなんざ遊びに行きたがるのか不思議でならねぇ。
そして、シャカがどうしてアイラと遊んでくれンのか、それも不思議でならねぇ。
正直、子供の遊び相手なンざ一番面倒臭がって近寄りもしねぇだろうと思っていただけに、シャカが度々アイラの相手をしてくれンのは有難い一方で、気味悪くもあった。


「様付けをするから上手く言えぬのではないのかね? シャカと呼んでみれば良い。」
「ちゃかたま。」
「敬称はいらぬと言っている。」
「だめなの。エラいひとは、よびすてしちゃいけないの。」
「ふむ……。道理は間違ってはいない。アイリーンは良く出来た親なのだな、教育が行き届いている。」


なンつーか、天然坊主と、まだ四歳のガキだ。
ロクに会話になンねぇだろうとは予想していたが、こうまで噛み合わねぇとは。
だが、噛み合っちゃいねぇのに、ちゃんと会話が成立してるトコロが何とも呆れる。


「よぉ、シャカ。すまねぇな、アイラの面倒見てもらって。」
「君に礼を言われる覚えはない。私は好きでアイラと話をしているのだ。」
「あ、そー。頭下げて損した。」
「その空っぽで軽い頭など、最初から下げておらぬであろう。」


ホント、ムカつくわ、この似非坊主が。
まだ幼気なアイラ、俺の可愛い愛娘の前で、その親の事を空っぽとか脳味噌足りねぇとか言うか、普通?
アイラが目を真ん丸にして、俺の事を見てンだろうが。


「でちちゃまだ〜。でちちゃま、おかえりなさい〜。」
「おー、一緒に巨蟹宮に帰ンぞ、アイラ。」
「アイラよ。そ奴に敬称などいらぬ。蟹で良い、蟹で。」


テメ、ゴラ!
そりゃ道理を間違い捲ってンだろ!
呼び捨てならいざ知らず、蟹で良いってなンだ、蟹って!
いや、呼び捨てだって問題だろが、ゴラ!


「何だね? やる気かね、蟹?」
「喧嘩売ったのはソッチだろ。テメェの胡散臭ぇ魂、黄泉比良坂に飛ばしてやろうか、ぁあ?」
「でちちゃま、おこっちゃだめなの。アイラ、でちちゃまをよびすてにはしないの。」


その刹那、ピリピリと睨み合うシャカと俺の間に、短くて小さな手足をいっぱいに開いたアイラが立ち塞がった。
半分、いつものおフザけだったとはいえ、黄金聖闘士二人の間に入るとは、何て勇気だ。
それともタダの怖いもの知らずか?


……違うな。
アイラにはアイラの正義があって、それは子供ながらに守らなきゃならねぇモンだって分かってるンだろう。


「ったく……。アイラに免じて、今日は許してやるよ。良かったなぁ、冥界送りになンなくてよ。」
「君こそ命拾いしたのだ。良く出来た娘に感謝する事だよ。」
「うっせーよ。じゃな。」
「ちゃかたま、バイバーイ!」


俺に手を引かれながら、何度も振り返り振り返り、シャカにブンブンと大きく手を振るアイラ。
それに対して、シャカが手を振り返す事は当たり前になかったが、口元がニヤけているのは遠目にもハッキリと分かった。


「あの下品な蟹から、こうも可愛らしい娘が生まれるとは。これぞ神の悪戯か。それとも仏の慈悲なのか……。」


何の事はない。
アイツも単に子供好き、アイラにメロメロだってこった。



‐end‐





子供には興味を示さなさそうなシャカ様が、蟹さまの娘にはメロメロになって欲しい願望。
見た目はクールに取り繕っているんですけどね、見た目は。
でも、可愛くて可愛くて仕方ないんです
それは黄金ズ皆に言える事なんですけどねw

2017.12.19



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