4.兄より弟



しょぼくれたアイオロスのヤロウがトボトボと教皇宮に帰ってから十数分後。
入れ替わりのように姿を現したアイオリアは、俺にビッタリとくっ付いて離れないアイラを、目を真ん丸にして見下ろした。


「……どうしたんだ、アイラは?」
「どうしたもこうしたもねぇ。理由ならオマエの兄貴に聞けよ。」
「そうか。また、兄さんか……。」


アイオロスの名前で全てを理解したアイオリアは、溜息を吐きつつ髪を掻き毟った。
弟にとっても困ったトラブルメーカーらしい、あの兄貴は。
あれで良く教皇補佐なんぞ務まるよな、ホント。


アイラは未だ俺にしがみ付いたままで顔を胸に埋めている。
いつにも増して機嫌が戻らないのは、アイオロスの頬っぺたプニプニ攻撃が相当に嫌だった証拠だろう。
そんなアイラの様子を見て、眉尻を下げたアイオリアが、その頭を優しく撫でる。
すると、埋めていた顔を恐る恐る離して、アイラがアイオリアの方を微かに振り返った。


「すまないな、アイラ。兄さんが、また意地悪をしたみたいで。」
「……りあにったま。」
「兄さんは仕方ない。昔からああなんだ。あの性格は何があっても変わらないんだ。」
「りあにったまも、いやいやなの、されたの?」


潤んだ瞳でアイオリアの顔を覗き込むように見上げ、パチパチと瞬きを繰り返すアイラ。
いつもであれば一人でも楽しく人形遊びをしているアイラが、こんなにもグズグズしている事に驚き、同時にアイオロスの身勝手な横暴さに、より一層、呆れの増した溜息を吐くアイオリア。
やれやれと言葉を吐いて、アイラの目線と同じ高さになるよう、自分の身を屈めた。


「俺が小さかった頃なんて、毎日、兄さんの好き勝手にされてたんだぞ。俺が嫌がれば嫌がる程、あの人は喜んでハイになるし。どうしようもなくなって泣いたら泣いたで、『俺はそんな弱い子に育てた覚えはないぞ!』って、怒り出す始末で……。」
「りあにったま、ないたの? ろすにったまに、ひどいことされたの?」
「そうだな。いっぱい泣いたな。お陰で今はこんなに強くなったんだぞ。」


だから、アイラも泣いてばかりじゃ駄目だぞ。
そう言って、アイオリアはアイラを自分の腕に抱き上げ、数回、クルクルと緩く回った。
最初こそ、真ん丸な目を更に真ん丸にして驚いた様子のアイラだったが、直ぐに楽しくなってキャッキャと喜びの声を上げる。
顔はソックリなのに、中身は大違いな兄弟だな。
人の嫌がる行動をピンポイントで繰り返すしつこい兄貴と、その一番の被害者だった辛抱強い弟。
優しいアイラは、アイオリアがアイオロスに嫌な事ばかりされていたと聞いて、自分が泣いていたのも忘れて、悲しそうに眉を下げた。


「りあにったま、かわいそうなの。アイラがなでなでしてあげるの。」
「ん? 俺の頭をアイラが撫でてくれるのか?」
「そうなの。りあにったま、ろすにったまに、いっぱいいじわるされてもがまんしたの。えらいの。だから、なでなでしてあげるの。」
「そうか。有り難う、アイラ。アイラは本当に優しいな。」


あ〜あ、これ、アイオロスのヤロウに見せてやりてぇわ。
アイラと仲良くしてぇなら、こうすればイイんだってな。


「アイラ、りあにったま、だいすきなの。」
「俺も、撫で撫でしてくれるアイラが大好きだぞ。」
「じゃあ、アイラのこともなでなでして、りあにったま。」


伯父と姪というより、もはや年の離れた兄と妹の域だな。
互いに互いの頭を撫で合っている姿は、この俺が見ていても微笑ましく思える程。
アイオロス被害者の会、ここに設立ってな。
それを知ったら、アイオロスはきっと歯噛みして悔しがる事だろうぜ。



‐end‐





前回の続き、ロスと入れ替わりに現れたリアが良いトコ取りする話です。
ロス兄さんが悪い人過ぎる件には目を瞑ってください(苦笑)

2017.12.26



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