しかし、あの女。
どっかで見た事あるような気がするんだがな、何処だったか……。
女の姿が通路の端へと見えなくなるまで見送りながら、微かな記憶を辿って考える。
そして、その女が角を曲がった瞬間、白い女官服のスカートの裾がフワリと翻ったのを見て、刹那、俺は思い出した。


ああ、あの女……。
二年程前に、どっからか教皇宮に移ってきた女官だったな。
昔は、別の場所に勤めていたが、そこから教皇宮に移ったって噂を聞いた。
そン時は俺等とは余り関わりのない部署にいたから良くは知らなかったが、聖戦後に配置換えになって、今は執務室や廊下でも頻繁に見掛ける顔だ。


そんな事を思い出している内に、ワンテンポ置いて、シュラが窪みからノソノソと出て来たのが見えた。
俺は直ぐ様、その後を追い、ヤツの肩を捕まえた。
振り返ったシュラは、ギョッとした顔で俺を見返してくる。
無感情にも受け取れる切れ長の瞳を、驚きで見開いて。
だが、その表情も直ぐに掻き消され、いつものコイツの冷たい眼差しに戻った。


「何だ、デスマスク?」
「なンだはねぇだろ? 今の、どういう事だよ?」
「今の、というのは何の事だ?」
「とぼけンなって。こんなトコで女に迫るなンてなぁ、オマエらしくねぇだろ?」


それよりも何よりも、俺がシュラの女関係で知らない事実があった事の方が驚きだ。
この目付きの悪ぃ悪友とは、切っても切れねぇ腐れ縁のためか、今まで好きになった女や、付き合った女、遊びで関係した女など、女関係に関してはお互いに熟知し合っていた。
それが、だ。
あの女の事は全く知らねぇし、聞いた事もねぇ。
ましてや、酒のつまみで話題に上がった事も。
俺の知らないところで、こンな風に言い寄ってるなんて、そンな事するくらいだ。
つまりは、相当に大事な女なンだろう。


「隅に置けねぇなぁ、オマエも。」
「勘違いするな。そんなものではない。」
「そんなンでなかったら、なンなんだよ? あ?」
「貴様には関係ない。」
「あ、そ? ったく、つまンねぇなぁ。この俺に隠し事なンてよ。」


親友(じゃなくて悪友か)の俺に対して、随分と冷てぇな、オイ。
だが、そう言われると、返って興味が湧くってモンだ。
ビッシリと棚が詰め込まれた狭い書庫の中、足早に遠ざかっていくシュラの背中を見送りながら。
俺はこの時、ゆっくり時間を掛けて二人の事を探ってやろうと、意地の悪い事を考えていた。





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