それからというもの、俺は気付かれないように細心の注意を払いながら、シュラとあの女の事を観察するようになった。
執務室や廊下、資料室、それに、油断のし易い宮の外など……。


だが、二人は一向に、それらしい雰囲気を見せる事はなかった。
他の黄金聖闘士と接するのと何ら変わりない態度で、シュラに接する女。
シュラも、いつものポーカーフェイスで淡々と仕事の指示や遣り取りをしている。


クソがっ!
何だ、アイツ等!
この俺に、全然、尻尾を掴ませねぇなんて!
俺が探ってンのに気が付いてやがンのか?!


こうなると、日が経てば経つ程、次第に苛々が募ってくる。
シュラのヤツは、俺が観察してると知ってて、上手く避けてやがるのか?
ならば、一先ずシュラは放っておいて、女の方から探ってみるべきだろう。
その方が、俺には向いている。
野郎の観察なんぞ面白くもへったくれもねぇ。
相手が女ならば、隙を見て近付いて、距離が縮まれば、後は根掘り葉掘り聞くだけだ。
俺の手に掛かれば、落とすのは容易。
そう思い、暫く女の方ばかりを注意して観察していた。


晴れの日のランチタイム。
女は教皇宮の庭で、同僚達と弁当を広げていた。
金茶色の髪が、さやさやと吹き付ける風に、柔らかにフワフワと揺れている。
体格は背が高く、肉付きも良い、肉感的な豊満な身体付き。
健康的な小麦色した肌に、瞳は濃いグリーン。
その辺で良く見掛けるような女共と、何ら変わりない極々普通の女。
特に人目を惹く訳でもない。
特別な美女でもない。


何が良いんだ、この女の?
熟知していた筈のシュラの趣味が、分からなくなってくる。
アイツは確か、線が細く、それでいて脱いだら凄そうな魅惑的な女が好みだった筈。
アジア系で艶やかな黒髪の女に目がなかったのに、ありゃ、正反対じゃねぇか。
そう思って、遠くから、ジッとその女を繁々と観察していた、その時だった。


女官仲間とお喋りしていた女が、不意に顔をクシャクシャに崩して。
コロコロと笑ったのが見えた。


――トクン……。


ちょ、何だ、今の?
俺の心臓が……、音を立てて鳴った、だと?
まさか、そンな事がある訳ねぇ。


もう一度、女の方を見遣る。
クシャクシャ笑顔のまま、彼女はまだ目を細め、小さく声を上げて笑っていた。


――トクン……。


再び、胸の鼓動が音を立てて鳴り出す。
オイ、マジでか?
嘘だろ、まさかこの俺が……?!


だが、目が離せなくなった。
その笑顔から、視線を外せなくなった。
あの女の笑顔には、何かとてつもない魔力でもあンのか?
俺が一目で心動かされるなど、絶対にある筈がねぇのに……。


呆然と眺めているうちに、ランチタイムが終わったのだろう。
その女と女官達は、いつの間にやら視界から見えなくなっていた。
途端、ハッとして辺りを見回すが、周囲に見知った顔はない。
良かった、誰にも見咎められてはいない。
こんな危ない場面、誰かに(取り分けアフロディーテ辺りに)見つかっちまったら、何を言われるか分かったモンじゃないからな。
俺は一気に血の気が退く思いがした。


今のは、ただの気の迷い。
たまたま目が悪くなったか、心が変になってただけだ、そうに決まっている。
無理矢理、自分自身に言い聞かせて、納得させた。
そうだ、落ち着いて考りゃ、とても馬鹿らしく思えてくる。
俺が女に見惚れる、だと?
どう考えても、絶対に有り得んだろ。


しかし、今の女の笑顔、なンつーか、何処かで見た事あるような気が……。
だが、全く思い出せそうにない。
俺は混乱する頭を抱えて、必死に記憶を探ろうとした。



→第2話へ続く


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