執務当番の日は気が滅入る。
こンな面白くもねぇ書類を何枚も何枚も、延々と処理しなけりゃならねぇし……。
ったく、目の前に積んであるだけで苛々して、腹が立ってきやがる。


こンなモンと毎日毎日、一日いっぱい、格闘しているサガは、一体、どンな神経してンだ?
アイツ、いつか発狂して頭おかしくなンじゃねぇのか?
俺としては、こンなデスクワークなんざしてるよりか、聖闘士候補生のヒヨッ子共を相手に訓練でもしてた方が、まだマシだと思えるくらいなンだがな。


ん?
デスクワーク、デスマスーク、似てねぇか、この二つ。
って、何、アホな事を考えてんだ、俺は?!


「あ〜、くそダリぃ。かったりぃ……。」


これで十数枚目になろうかという書類を書き終え、自分のサインを入れて手を止める。
ゴリゴリに凝った首をグルグルと回してから、何気なく顔を上げれば、向かいのデスクに座って執務をしていたアイオリアの姿が目に映った。
今日の執務当番は、俺と、コイツと、コイツにそっくりな兄貴と、サガの四人。
また何とも微妙なメンバーが集まってるモンだ。
俺はチラと視線を送って、サガとアイオロスが真面目に書類を処理しているのを確認すると、その視線を眼前の筋肉質な男へ向けた。


こうして見ると、コイツとアイリーンとじゃ、全体的には全く似てないンだがな。
パーツ毎に区切ってみれば、やはり兄妹であると思わせる雰囲気が、そこかしこにある。
髪の色とか質感とかも良く似ている、瞳の色も全く同じだ。


しかし、厄介だな。
俺が自分のものとした女が、こんな如何にも頭の堅そうなヤツの妹とは……。


「何だ、デスマスク? アイオリアの事、ジロジロ眺めて。何か面白い事でもあるのか?」


げ、アイオロス。
いつの間に、気付きやがった?!
さっきまで真面目に書類と格闘してたってのに、今はニヤニヤ笑いを浮かべて、頬杖まで付いてコッチを眺めてやがる。


「もしかしてのもしかして。デスマスクはリアの事、好きなのか?」
「ぁあ?! アホ抜かせ、俺が男になんざ興味持つかよ。ざけんな。」


有り得ない言葉を投げ掛けられ、俺は殺意の籠もった視線でアイオロスを睨み付けたが、そンな事に動じる相手ではない。
全く気にせずにヘラヘラしてやがるのがムカつく。
一方のアイオリアは、上げた顔に苦虫を噛み潰したような表情を貼り付けて、俺を見てやがるし。


あぁ?!
なンか文句でもあンのか、コラ!
つか、変な誤解を真に受けてンじゃねぇぞ!


「ああ、すまない。デスマスクは可愛い彼女と同棲中だったな。近頃、この教皇宮辺りでは、専らの噂だ。可愛い子なのか? 良いなぁ、デスマスクが羨ましいな。」
「羨ましい? アンタなら、そこらの女、選り取り見取りだろ。」
「それが全然でさ、ハハッ。」


ニコニコと話すアイオロスには、厭味の欠片も、悪気さえ感じられない。
正直、コイツが一番、怖ぇ。
もし、俺が同棲してる相手が自分の妹だと知ったら、コイツはどうする?
この笑顔のまま、必殺技でもぶっ放してきやがるか?


「…………。」


ヤベェ、考えただけで冷や汗が出てきやがる。
だが、このままってワケにはいかねぇんだよな……。
散々迷った挙句、俺は決心した。
ちょうど兄弟二人揃ってる事だし、なら、今日がチャンスだろ。


「悪ぃ、ちょっと……。」


俺はアイオロスに向かって手招きをした。
心の奥で、覚悟を決めて……。





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