俺の手招きに応じ、顔面に貼り付けた笑顔を崩しもせず立ち上がったアイオロスは、ゆっくりとコチラに向かって近寄ってきた。
つか、近くで見ると余計に迫力あンな、この笑顔。
強面シュラより、コッチの方がずっと怖ぇだろ。
寧ろ、アイツの無表情よりも、この笑顔の方がポーカーフェイスって言えンじゃねぇの?


正直、あまり人の顔を正面から見ないようにしてる俺は、真正面から近付きつつあるアイオロスの笑顔に、一瞬、激しくたじろぎ、思わず顔が引き攣っていた。
人の気持ちを読むのは多分、黄金イチ得意と自負しているが、コイツに限っては全く読めねぇ。
アイオロスめ、一体、何考えてやがる?


「何だ、デスマスク? あ、もしかして、リアよりも俺の方が好みだったとか? 良い趣味してるなぁ。」
「ぁあ?! 何処がだ、ど・こ・が?! その胡散臭い笑顔が好きだってンなら、最高に悪趣味だっつの!」


人が一世一代の大告白(間違っても恋愛的な意味じゃねぇぞ)をしようとしてるっつー時に、ふざけやがって!
ぜってー、ワザとだ!
俺をからかって喜んでやがるだなんて、時と場所を選べよ、ボケ!
テメェの宮の中、壁と言わず、柱も天井も床も、ベッドの中まで、全て死仮面で覆い尽くしてやろうか、あぁ?


「冥界の入口に叩き落されてぇのか?! 人が真面目な話をしようって時に、ふざけンじゃねぇぞ!」
「ふざける? ちょっと場を和ませようと思っただけで、そんな気は全然なかったんだが……。そうか。すまなかったな。で、何の用だ?」


人の気も知らねぇでニコニコしやがって、このクソオロスが。
俺の横の席に腰を下ろすと、頬杖を付き、余裕たっぷりにコチラを見遣る。
しかも、俺の怒りを受けて尚、一ミリも笑顔を崩す事なく。


ったく!
最強にムカつく!
だが、最強に怖ぇ!


チラリと向かい側のアイオリアの様子を見ると、興味津々の面持ちでコッチを見ていた。
遠慮なくガン見。
流石は鈍感筋肉馬鹿。
そして、向こうにいるサガも、せっせと書類を処理しているように見せ掛けてはいるが、実のところ、さっきからずっと手が止まっている。


……こりゃ、予定変更だな。


こンな場所で話なんぞした日には、余計なヤツ等の耳にまで、余計な事が入りかねない。
しかも、大概、こういう時には、無駄な尾ひれがくっ付いて、話が無駄にデカくなって広がるって事くらい、容易に想像が付く。


「すまねぇが、執務が終わったら巨蟹宮まで来てくンねぇ?」
「俺が? 何でまた?」
「大事な話がある。オマエと……、そっちの筋肉ダルマにも来て欲しい。」
「筋肉ダルマ……、俺の事か?」
「まさかも何もねぇ、オマエしかいねぇだろ、アイオリア。」
「そうか、俺か……。」


自分もと聞いて、素直に驚くアイオリア。
曲者の兄とはエラい違いだな、この単純馬鹿は。
とても兄弟とは思えないねぇ。


「おう。夕飯くらい食わせてやっから、必ず来い。頼むぜ。」
「あ、あぁ……。」
「分かった。なら、お言葉に甘えて夕飯を一緒させてもらうよ。」


話はココで打ち切り。
後は知らん振りして、また元の書類と睨めっこに戻る。


この方がイイ。
今、この場で何だかんだ言うよりかは、俺の宮で落ち着いて話した方が時間もタップリある。
周囲も気になンねぇ。
何より、アイリーン自身がいる。
この話は、やはり本人が同席してる場所での方がイイだろう。


俺はクソ面白くもねぇ書類に目を通しながら、今夜の話し合いをどう進めるか、そればかりを考えていた。



→第7話へ続く


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