腹黒彼氏と困惑彼女A



――まさか本当について来るなんて……。


「どうして貴方がココにいるんです、ミーノス様?」
「どうしてって、決まっているでしょう。」


パンドラ様が出席なさるのです、護衛が必要ですからね。
ミーノス様はゆったりと笑うと、当たり前のように、そう言い放った。
ただでさえ鋭い目を更に細め睨んでくるバレンタイン様の視線も、まるで涼風にでも当たっているかのようにサラリと流して。


パーティー会場の片隅。
本日も艶やかに美しいパンドラ様と、その後ろにかしずく長身の美丈夫二人。
それぞれお一人ずつでも十分に目を惹くというのに、それが三人も寄り集まれば、当たり前に会場中の注目の的になっているという訳で。
バシバシと突き刺さる視線の鋭さに、私はミーノス様の背に隠れ、小さくなっているしかなかった。


「パンドラ様の護衛なら、私一人で十分。何もミーノス様まで来る必要は……。」
「何を言っているのです、バレンタイン。地上に出るという事は、いつ何時、敵に襲われるか分からないのです。万全の体勢で臨んで当然でしょう。」
「成る程、そういう事ですか。」


呆れの溜息を小さく吐くと同時に、チラと私へ一瞥をくれたバレンタイン様は、どうやらミーノス様の目論見をあっさりと見抜いたようだ。
肩を竦めた後、彼は渋い表情をして、指先で眉間まで押さえている。


「おや、どうしたのです、アルクス? そんなに縮こまって隠れて。」
「あ、あの……。余りにも人目が多くて、それで……。」
「あぁ、今夜の貴女は一段と美しいですからね、アルクス。会場中の視線を集めてしまうのは仕方ない事ですよ。」


いいえ、違います。
注目を集めているのは、私ではなく貴方です、ミーノス様。
その見事なスタイルと優雅な仕草、そして、口元に浮かぶ優しげな笑み。
その『見た目紳士』な雰囲気に会場中の女性が注目し、同時に、彼の横にいる私に痛い程の嫉妬光線が浴びせられているんです。
だからこそ、こうして目立たぬよう隠れているというのに。


「アルクスはもっと堂々とすべきです。貴女は私が選んだ女性なのですから。さぁ、ほら。」


嬉しそうに私の腕を取って、挙句、その腕を自分の腕にしっかりと絡め、嫌がる私を鋭い視線の真っ只中へと引き摺り出すミーノス様。
お願いだから勘弁してください!
そう願う私の心の声が、彼に届く由もなく……。


「で、満足ですか?」
「何の事です、バレンタイン?」
「とぼけないでください。」


呆れ顔のまま、チラと横目で腕を組んだ私達を見やるバレンタイン様。
上司であるから怒れないのか、それとも、呆れ果てて怒る気力すら湧かないのか。
うんざり顔とうんざり声で尋ねてくる。
うん、きっとバレンタイン様が心配しているのは、護衛が云々ではなくて……。


「ミーノス様はパンドラ様の護衛と言いつつ、その実はアルクスと仲良くパーティーに出席したい、もしくは、アルクスの素敵なドレス姿を見せびらかしたいためだけにココへいらしたのでしょう? ならば今頃、貴方の仕事を押し付けられてヒーヒー言ってる冥闘士がいるのではないかと思いましてね。」
「押し付けるとは心外ですね。仕事を代わって欲しいという私の頼みを快諾してくれたのですよ、ルネが。」


そうですか。
今回の被害者はルネ様ですか。
何と言うか、ルネ様はミーノス様の直属の部下だけあって、被害に合う確立が他の人の数倍は高いような気がします。
後で地上のお菓子の詰め合わせでも買って、こっそり謝罪に行くべきかしら。


「快諾って、どうせその笑顔でゴリ押しなさったのでしょう? 貴方のいつもの手口じゃないですか。」
「ゴリ押しだなんて人聞きの悪い。私は普段通りに『ルネ、宜しく頼みますよ。』と言ったまでです。」
「それがゴリ押しと言うんです。毎回、毎回、貴方という人は……。」


多分、バレンタイン様は直属の上司であるラダマンティス様の苦労を思い、苦々しい気持ちでいっぱいなんでしょうね。
今頃、ルネ様だけでは手が回らなくて、ラダマンティス様が尻拭いに奔走しているかもしれないのだから。
ミーノス様もパーティーに参加する事を、パンドラ様が快く承諾してくださったから良かったものの、もしこれが却下されていたとなると、どんな大変な事になっていたのやら、考えるだけで頭が痛い。


「それに、アルクスを見せびらかしたいのではなく、彼女に悪い虫が寄ってこないようにガードしに来たのです。」
「み、ミーノス様。今、思いっきり本音を口走りましたけれど……。」
「本っ当に、いい加減にしてくださいよ!」
「はい? 一体、何の事やら……。」


本気で分かっていないのか、ワザととぼけているのか。
優雅な笑みを引っ込める事もなく、渋面のバレンタイン様を前にシャアシャアと言ってのけるミーノス様の神経の太さに、私はただ冷や冷やとするばかりだった。



なにか問題でもありましたか?



‐end‐



→Bへつづく


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