その時、丁度、闘技場の中で手合わせをしていたのは、シュラ様とアイオリア様だった。
拳や蹴りの威力・精度は勿論、その圧倒的な速さに目を白黒させるしかない私。
スピードは黄金聖闘士様の中でも一・二位を争うお二人だ。
見たところ、俊敏さとバランス感覚はシュラ様の方が上だが、アイオリア様には当たればノックダウン間違いなしのパンチ力がある。
さしずめ、技術のシュラ様と強打のアイオリア様の勝負、と言ったところだろうか。


――ガガガッ!!


ホンの僅か、足の止まったシュラ様の隙を突き、アイオリア様の猛攻が始まった。
頭部をガードする両腕の上から、息も吐けぬ激しいパンチの雨が降り注ぐ。
それはシュラ様が反撃する隙はおろか、逸らす事も避ける事も出来ない滅多打ちの連打だった。
ただ貝のように両腕でガッチリとガードを固め、アイオリア様の攻撃を受け続けるだけのシュラ様。


「わっ、凄い打撃!」
「やだ。アイオリア様、あんなに一方的に……。シュラ様、大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。ほら、ちゃんとガードしてるでしょ。ダメージはないみたい。」
「でも……。」


両腕のガードの上からとはいえ、目にも止まらぬ連打の嵐を受けて、シュラ様の身体がジリジリと後ろに押し遣られてきている。
素人目には圧倒されているようにしか見えないし、アイオリア様の重いパンチをあれだけ受ければ、ガードする腕に相応の痛みだって走っているだろう。


「何? 鮎香はシュラ様の事が、そんなに心配?」
「えっ?! や、そんな事は……。」
「ふふっ。鮎香は分かり易いなぁ。」


そんなに分かり易いのかな、私……?
同じ日本から派遣されて来た彼女だから、付き合いの長さで察しただけなら良いけれど、これが誰しもにバレバレなのだとしたら、物凄く問題だわ。
もし黄金聖闘士様狙いの『肉食女官達』に知れれば、何を言われるか。
考えただけで嫌気が差してくる。


「そうかなぁ。でも、やっぱりシュラ様が一番、素敵に見えるんだもの。格好良いし、優しいし。」
「確かにシュラ様は素敵だけど、黄金聖闘士様は皆、同じくらい格好良いわよ。私はミロ様の方が好みだなぁ。」


そんな事を話している間に、手合わせをしている二人に動きがあった。
ただパンチを受け続けるだけのように見えていたシュラ様だったが、アイオリア様の拳が僅かに鈍った瞬間を突いて、素早く足を引っ掛けていた。
軽くグラついたアイオリア様に向かって、シュラ様の左拳が鋭い一撃を放つ。


が、そこは流石に聖闘士。
不十分な体勢であっても、シュラ様の大振りな気味なそのパンチを、アイオリア様は身を翻して巧みに避けた。


だけど、それはシュラ様のフェイントだったらしい。
避けたせいで益々、体勢の悪くなったアイオリア様の身体が、グラリと傾いた先。
そこにシュラ様の足が待ち構えていた。
反応の遅れたアイオリア様は、脇腹にシュラ様のキックを強かに食らって。
更には、それによりよろめいた身体を両足で挟み込まれ、そのまま壁まで飛ばされてしまった。


――ズガアァァァンッ!!


耳に響くのは、派手な轟音。
目に映るのは、闘技場全てを覆う土煙。
アイオリア様が飛ばされたのは、会場の中央辺りから、周囲をグルリと囲う壁までの相当な距離。
そして、勢い良く壁に打ち付けられた衝撃で、私達のいる観客席までビリビリと振動が伝わってきていた。





- 2/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -