圧倒的な戦い、その凄まじさに声も出ない。
その時は、息を吐く事すら忘れていた。
徐々に静まりつつある土煙の中で、シュラ様が壁に凭れたままのアイオリア様に手を伸ばす姿が見えて、やっと息がホッと零れ出た。


「……凄かった、ね。」
「うん。やっぱり聖闘士様って凄いのね。手合わせでコレでしょ。実際の戦闘ともなれば、どんな事になるんだろう。」
「鮎香、シュラ様が勝って良かったわね。」
「え? や、それは、その……。」


思わず、まだ闘技場の中にいたシュラ様の方を見遣る。
彼はアイオリア様の肩を数度叩いて、何かを告げているようだった。
何を言っているんだろう?
励ましか、アドバイスか、それとも、全く別の言葉か。


「多分、シュラ様も鮎香の事が、お気に入りなんだと思うわ。」
「えっ?! 絶対にそんな事はないわ!」
「どうして? あの不愛想で仏頂面のシュラ様が、鮎香の事だけは、とても気に掛けてるようだし。」
「私だけをって事はないわよ。シュラ様は皆に優しくて親切だもの。」
「そうかなぁ。」


軽く首を傾げた彼女から視線を外し、もう一度、闘技場の中へと目を向ける。
今は、シュラ様とアイオリア様の他に、ミロ様とアルデバラン様も加わって何かを話し合っているというか、話しながらの身振り手振りから察するに、攻撃方法の確認といったところだろうか。
年下のお三方に対して、何事かの説明を続けるシュラ様の真剣な眼差しに、私は目が離せなくなる。


普段、執務室で見るシュラ様とは違う。
同じ真剣な眼差しでありながら、対象が書類と戦闘とでは、こうもその目に宿る光の強さが変わるものなのかと思う。
そして、先程の手合わせの最中にみせた鋭い視線。
その視線一つで相手を射抜いてしまいそうな鋭利な眼差し。
あれが戦いの中に身を置き生きる闘士の目なのだと思うと、より一層、シュラ様との距離が遠く感じてしまう。


「っ?!」


その刹那。
不意に視線を上げたシュラ様と、目が合った。
途端に時間が止まってしまったかのような感覚に陥る。
ホンの数秒の事でありながら、もっとずっと長い時間、シュラ様と視線を合わせていたような、そんな感覚……。


きっと錯覚だわ。
闘技場の中と観客席、これだけ離れた距離で、しかも、この大人数の観客達の中、真っ直ぐに私に視線を送るなんて有り得ない。
たまたま視線を向けた先に私が居た、ただそれだけの事。
シュラ様は、ココに私が居る事なんて、気が付いてもいないに決まっている。


「どうしたの、鮎香? 驚いた顔して固まって。」
「え、あ、いえ。何でもないわ。」
「そう?」


それでも……。
一時は遠くなってしまったと感じていたシュラ様との距離が、その視線一つで、また急速に近付いたように思えて。
それだけで私の心は、嬉しさで満たされていた。



その視線に揺れ動く心
(一喜一憂する程に好きなんです)



‐end‐





山羊さまの視線は色々と反則だと思います。
夢主さんも瞬殺(笑)
闘う山羊さまの格好良さを書きたかったのですが、描写力がないため撃沈。
そして、どなたか壁に激突したニャー君に愛の手をw

2012.07.29



- 3/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -