「意外と男を見る目がないのだな。」
「何気にハッキリ言うんですね、シュラ様。」
「まぁ良い。そんな事も、直(ジキ)に関係なくなる。」
「??」


ポカンと口を開けて、その端整な横顔を見上げていた私の方へチラリと視線を向けると、ただ小さく肩を竦めてみせたシュラ様。
それ以上、何も言う気はないのか、口を噤んでしまった彼に、その言葉の意味を問い質す事も出来なかった。
何がどう関係なくなるというのか、まるで意味が分からない。


「……で、結婚を考えていたのか? その男と。」
「え、あ、はい。あの頃は、十八くらいになったら彼と結婚して家庭を持って、なんて色々とリアルに考えてました。でも、今では見る影もなく、仕事一辺倒な面白味もない女になってしまったのですから、不思議なものですね。」


彼と別れて以来、恋愛には全くと言って良い程、興味がなくなってしまった。
だから、黄金聖闘士様を見てはキャーキャーと騒いでいる女の子達にはついていけないのだ。
私は『恋』に心を傾け、情熱を注ぐ人達に対し、いつも一歩下がったところから冷めた眼差しを向けていた。
シュラ様によって、この心を掻き乱されるようになるまでは……。


「ならば、デスマスクに感謝せねばならんな。」
「……え?」
「そうだろう? もし、デスマスクがアンヌをもっと自由にしていたなら、今頃はそんな将来性の欠片もない男を夫にしていたかもしれん。アンヌという人間の価値を少しも分かっていない、そんな男と一緒になったところで、ただただ不幸になるだけに決まっている。そうならなくて良かったというものだ。」
「はぁ……。」


確かに、私は見る目がなかった。
今思えば、あの人は私に対し優しかった訳でもなかったし、だからといって、人として特別に優れたところがある訳でもなかった。
取り立てて『コレ』といったところのない平凡でつまらない人。
ただただ傍にいて、私を好きだと言ってくれた、それだけの人。


だけど、あの頃の私には、好きだと言ってくれるだけで十分だった。
黄金聖闘士様の傍近くに仕え、最高クラスの男性を常に目の当たりにしてお相手を務める今では、目が肥え過ぎてしまって、とてもそうは思えなくなっているけれども。


「アンヌには、もっと相応しい男がいる。俺達黄金クラスでも十分に釣り合う、それだけの価値がある女だからな。」
「あの……、幾らなんでもそれは言い過ぎでは……。」


黄金聖闘士様と釣り合うだなんて、そんな畏れ多い事を。
たかが宮付きの女官に過ぎない自分に、それはあまりにも過大過ぎる評価だ。


「全く……、何処まで自覚がない? 謙遜し過ぎだ、分からないのか? 容姿・性格・知性、どれをとっても一級品であるばかりか、家事全般もこれだけ見事にこなすとあれば、男は放っておかないだろう。」
「謙遜など……。シュラ様こそ、誇大評価し過ぎです。私、これまでモテた例(タメシ)など一度もありませんよ。」
「ならば、夕方のあの一幕は何だったと言うのだ? あの生真面目なアイオリアが、下心もなしにデートに誘ってきたとでも?」
「それは……。」


言われてみれば、確かにそうだ。
折角のお休み、しかも、わざわざ休暇を取ってまで、興味もない相手を誘ったりしないだろう。
でも、まさかアイオリア様が、私などを……?


「相変わらず、とてつもない鈍さだ。まぁ、それもアンヌの魅力の一つではあるがな。」


そう言って、私の方へと伸ばしてきた指で、スッと頬を撫でたシュラ様。
途端に、心臓が音を一つ飛ばして打った。
実際、そんな事などある筈もないのだが、一瞬だけ鼓動が止まったかのような、そんな錯覚を覚えた。





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