「フン。デスマスクの助言などに従うとは。相変わらずお節介なヤツだな、アイツは。」
「でも、シュラ様だって抜け駆けですよね? 私の事を、どうこう言えないのでは?」


真横に見る彼の顔は、それまでの無表情から、ピクリと片眉だけを釣り上げた顔に変わった。
抜け駆けという言葉に反応したのか、私が反論をした事に驚いたのか。
ジロリとこちらを横目で見遣った後、また一つ、フンと鼻を鳴らす。


「お前と二人で来る前に、きっちりと挨拶をして、許しを得ておくべきだと思っただけだ。」
「ほら。やっぱり人の事は言えませんね。」
「人の助言で親の墓参りに来る娘よりはマシだろう。」
「あ、酷い。そんな言い方をしなくても良いですのに……。」


互いに鋭い視線で目を合わせる。
そこから数秒、黙って睨み合い、直ぐにフッと抑え切れない笑いが零れた。
お墓の前で、こんな言い合いをしているだなんて。
考えたら、おかしくなってくる。


「やはり似た者同士なのかもしれなんな、俺達は。」
「そうですね。そうかもしれません……。」
「かも?」
「似てないところも沢山ありますから。」


我が儘で自己中でマイペースなところとか……。
そんな似ている部分、似ていない部分も全て含めて、この人に惹かれているのだ、私は。


屈んだままの状態で、シュラ様がスッと腕を伸ばした。
その手が触れたのは、目の前にある両親のお墓。
柔らかな手付きで数度、表面を優しく撫でていく。
その手に籠めた意味が、見ている私にもジワジワと伝わってくる。


「貴方の娘と夫婦になった。今日は、その報告に来た。」
「シュラ様……。」
「許してくれと言ったところで、許してはくれぬのだろう。俺は聖闘士で、黄金位にあって、常に戦いの真っ只中に身を置いている。いつ死の世界へと身を落とすか分からない身だ。一生、大切にするとか、守り通すとか、そんな約束は出来ない。だが……。」


言葉が途切れたタイミングで、フワリと風が通り抜けた。
真っ直ぐに両親のお墓を見つめ、真摯な言葉を紡いでいくシュラ様の黒い髪が揺れる。
私は、その揺れる事のない瞳を、真剣な眼差しを真横から見ていて、息も出来ないくらいに胸がいっぱいになっていた。


「幸運にも女神の御加護で再び手にする事が出来た二度目の命。愛する女と共に、日々の生活を重ねていきたいと思うのは、贅沢な我が儘なのだろうか? アンヌには不安を覚えさせる事も、心配させる事も多々あるだろう。だが、そういったマイナス要素までも繋ぎ合わせて、二人で幸せを作れる。その唯一の相手がアンヌだと思っている。だから、彼女の傍にいさせて欲しい。」


嬉しい、涙が溢れそうだ。
でも、ここで泣いてはいけない。
笑顔で、楽しそうに笑って、幸せそうに微笑んで。
喜びに溢れた表情でシュラ様の隣に居る姿を、両親に見せたかったから。


「私……、私、幸せですよ。これからも、ずっと幸せでいます、シュラ様と共に。だから……、見守っていてくださいね。何があっても、私達の事を……。」


私も腕を伸ばして、そっとお墓の表面に触れた。
少しずつ強まりつつある日差しに、それはホワンと温かくなっていた。
吹き抜ける穏やかな風に乗って、供えた白薔薇と白百合の香りが立ち上る。


「アンヌ。」
「はい。何で……、っ?!」


名前を呼ばれて横を向く。
刹那、眼前に迫っていたシュラ様に、唇を奪われていた。
最初は触れるだけ、それから、グッと押し付けられて、当然の如くに深まっていく口付け。


「な、な、何を……?」
「誓いの口付けだ。必要だろう?」


デスマスク様みたいに片方の口の端を持ち上げて、ニヤリと笑う。
全く、この人ときたら……。
お墓の前でも、いつもと変わらぬ色気を振り撒いちゃって、もう。
私は呆れの溜息を一つ。
それから、不意打ち気味に、反撃の意を籠めたキスを、シュラ様の頬に一つ落とした。





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