太陽を背負い歩く姿は、雄々しい勇者のようでもあった。
背筋をシャンと伸ばし、一歩一歩力強く歩く姿勢。
背中のマントがどんなに強く風に翻ろうと、揺れる事なく真っ直ぐに突き進んでくる。
ギリギリまで目を細めてみても、目を凝らしても、眩し過ぎる朝陽に、輪郭以外は判然としない姿。
だが、ただの黒いシルエットであっても、それが誰であるのか、私には直ぐに分かった。


「……アンヌか?」
「シュラ様、どうしてココに?」
「それは俺の台詞だ。お前こそ、どうしてココに居る?」


ザリッと砂利を踏む音と共に、視界を奪っていた太陽の光が、その大きな身体によって遮られた。
一部、髪の隙間や首筋、脇の間などから漏れ出る光に、彼の身体の線が黄金色に輝いて見える。
シュラ様は黄金聖衣を纏ったままで、ココへ来たのだろう。
つまりは、聖域に帰還したものの、自宮にすら戻る事なく、真っ直ぐにこの場所へと足を運んだのだ。


「お墓参りです、両親の。」
「奇遇だな。俺も墓参りだ。義理の両親となる人達のな。」


シュラ様がしゃがみ込むと、また強い朝陽が私の視界を奪った。
だが、目の前の人が、もう黒いシルエットに変わる事はなかった。
近過ぎる距離、肩と肩とがぶつかり合う距離にいて、多少、眩しくはあれど、もう彼の表情を窺う必要はない。
横を見遣れば、ハッキリと読み取れる位置に、今は居るのだから。


「聖域への御帰還は、明日以降になると思っていました。アイオロス様が、そう仰ってましたので。」
「残りの処理をアフロディーテが引き受けてくれた。多分、俺の焦燥具合が激しくて、見ていられなくなったのだろう。早く戻りたくてイラついていたからな。」
「そのような事で苛々するなんて……。この先、もっと長期の外地任務を任された時、どうするのですか?」
「さあな、どうしたものか……。」


フッと息が零れるような笑みを一つ。
そして、沈黙。
ジリジリと頭上に降り注ぐ日差しが、少しずつ強くなってきている気がする。
気温も徐々に上がってきているのを感じた。
これ以上の長居は危険だ。
私は横目でチラと彼を見て、それから無言で立ち上がろうとした。
だが、それを察したシュラ様が、私の手首を捕んで引き戻し、敢えなく阻まれてしまった。


「あの、そろそろ戻らなければ、日差しが……。」
「分かっている。だが、もう少しくらい問題ないだろう。俺がいれば、戻りは一瞬で済む。」


言われてみれば、そうだ。
でも、だからといって、ぼんやりとココで過ごしている訳にはいかない。


「そんなに長くは掛からんさ。ちょっとした報告だからな。」
「ちょっとした?」
「お前と夫婦になったという報告だ。」


それの何処が、ちょっとした報告なのですか。
ちょっとしたどころか、大事な報告だと思うのですけれど。
抗議の声を上げようとした私だったが、シュラ様は既に祈りの手を合わせていたので、グッと言葉を飲み込むしかなかった。


「……約束を破ったな、アンヌ。」
「え?」
「二人で共に報告に行こうと言っていただろう。」
「でも、それは……。」


そういう話にはなっていたのは間違いないけれど、何よりも大事な話だもの。
まずは私の言葉で両親に伝えておかなければと、そう思うのは当然。
だから、シュラ様が戻ってくる前にと、今日の朝に、こうしてお墓参りに来たのだ。
と言っても、それもデスマスク様の助言と、お花の差し入れがあったからこそなのだけれども。





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