その時、目の前のムウ様が、不思議と空を見上げている事に気が付いた。
これ程までに緊迫した戦闘場面を眼下に見下ろしながら、どうして全く関係のない方向を、空などを見上げているのだろう。
そこに何かあるのかと、釣られて空を見上げたが、私の目には何も見えなかった。


「……ムウ様? どうかされたのですか?」
「空、真っ青ですね。」
「はぁ……。あの、それがそれが何か……?」
「昨日とは打って変わって、雲一つない晴天だという事です。あの鬼神にとっては、嬉しくない状況だと思いますよ。」


そうか、あの化物は、水を好む。
この夏の異常気象、降り続く雨を受けて、あの鬼神はジワジワと力を蓄えていった。
アテナ様の小宇宙が漲る水辺に居るとはいえ、より強い力を発揮するには、雨が降っていた方が、鬼神にとっては都合が良かった筈。


「あの姿が表に出てしまったのですから、長く身を潜めているのは難しいでしょう。状態が不安定なまま、長い時間が経過するのも問題があります。次に雨が降り出すまで待つには、リスクが高過ぎた。我々にとってはラッキーでしたが、あの化物にとってはアンラッキーな巡り合せになりましたね。」
「という事は、あの鬼神は持っている力を最大限に発揮出来ないと?」
「おそらく。昨夜、小滝から多少の力を吸収していても、この晴れ渡った天候を思えば、寧ろ、昨夜よりも弱っている可能性もあります。」


遥か崖下で禍々しい妖気を放つ鬼神の、巨大で不気味な姿を見遣る。
半透明でありながらもヌラリとした昆虫の体表の質感、そして、節々を揺らして構える気味の悪い動き。
その姿を見てしまえば、本当に昨夜よりも弱っているとは思い難いのだが、一方、カミュ様が的確に放つ凍気によって確実に足止めをされている様子から、その予想は間違っていないのだろうとも思える。


「そういえば、貴女は日光に弱いのでしたね。大丈夫ですか? このような野外に居て。」
「気温もまだ、それ程には高くないですから、問題ないと思います。ただ、このまま時間が経過して、どんどん気温が上がっていくような事になれば、危ないかもしれません。」
「そうですか。でも、そんなに長くは掛からないと思います。この睨み合いは、もう直ぐに終わるでしょう。」


どうして、それが分かるのか。
疑問符を浮かべながら、斜め前に立つムウ様の横顔を見上げた。
その時だった。


「っ?! オイ、分裂したぞ! ソイツ等、このエリアから出すンじゃねぇぞ!」
「分かっているさ! 逃すものか!」


途端に走る緊張、揺れる空気、鋭い闘気が周囲に流れた。
化物の身体から足が二本、離れたかと思うと、その足が変化して、小さなアメンボの形に変わったのだ。
放たれた二匹のアメンボは、左右に分かれて走り出し、崖下を回り込んで、唯一の出口となる聖域の森へ続く道に向かって、突進していった。
だが、化け物と対峙する黄金聖闘士は、それを許すようなボンクラではない。


――ガガッ!!
――ゴアッ!!


そこに立ち塞がったのは、シュラ様とアルデバラン様。
一寸の躊躇もなく振り下ろされたシュラ様の聖剣と、アルデバラン様のグレートホーンが、小型のアメンボ二体をアッサリと吹き飛ばしていた。





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