ゾワリ。
全身に震えが走る程の寒気が、一瞬で辺りを包み覆った。
これは……、カミュ様の凍気?


「アンヌ。これを羽織っていなさい。」
「で、でも……。」


押し寄せてきた寒さに身を縮ませた私に、ムウ様が差し出したのは、彼が纏っていた白いマント。
早朝とはいえ、今は夏。
私は肩も腕も露出した女官服の上から、薄いカーディガンを羽織っていただけ。
そんな私の格好を見兼ねて、上からマントで身体を覆えば体感温度も変わるだろうと、ムウ様が貸してくださったのだ。


「躊躇の必要はありません。私にとってマントの有る無しは、然したる問題にもなりませんから。今は貴女の身体の方が心配です。」
「お気遣い感謝します。有り難くお借りいたします、ムウ様。」


彼等黄金聖闘士の纏うマントは、生地も厚く、しっかりとしている。
フワリと羽織るだけで、肌を刺すような冷たい空気は、かなり遮断された。
それにしても、カミュ様のこの凍気。
明からに昨夜よりも強力になっているような気がするのだけど……。


「気がするのではなく、実際に昨夜よりは、ずっと強くなっていますよ。」
「ですが、それでは歩美さんの身体がっ!」
「心配には及びません。カミュが彼女を犠牲になどする訳がないでしょう。まず、アイオリアがそれを許す筈がない。」
「それはそうですが……。」
「彼も黄金聖闘士。昨夜、あの鬼神と対峙した事で、敵の力の大きさ、そして、その防御の限界値を推測出来たでしょう。昨夜は氷を砕かれ、脱出されてしまいましたが、今はより微細な調整が可能な筈です。彼女の身体が耐えられるギリギリのところまで凍気を引き上げ、且つ、鬼神を逃さぬようコントロールしている。ほら、御覧なさい。」


見下ろす禊ぎの泉で、巨大な化物を相手に、技を放つカミュ様の表情は、普段の冷静な様子の彼からは考えられない程の必死の形相だった。
眉を寄せ、唇を噛み、真っ赤な長い髪は巻き上げられる強い風に煽られて、乱れ靡いている。
どれ程の力――、小宇宙と集中力を向けて、この凍気を放っているのだろう。
これでは長くは持たない。
戦闘については素人の私ですら、そう確信出来る。


この勝負は、決着は――、きっと一瞬だ。


これだけの人数の黄金聖闘士がこの場に集い、たった一つの敵に立ち向かっている現状。
相手の力と、コチラの総力。
この二つがぶつかるのならば、長引く戦いにはならない。
昨夜のように、出す手がない、八方塞がりの状態ではないのだ。
今は、あの鬼神に対しての『策』を持って、この場所へと向かってきたのだから。


「オイオイ。なンだよ、この気持ち悪ぃ化けモンは。こンなにデケぇなンて、聞いてねぇぞ。」
「昨夜、小滝に沈殿していた小宇宙を吸収したからかもしれん。実際の姿形に近い形へと変化したようだ。」
「つっても、身体が透けてるトコを見ると、まだ実体じゃねぇンだろ? なら、なンとかなりそうじゃねぇの。俺の力があればなぁ。」
「グダグダ言ってないで、早くやるのだ、デスマスク。これ以上、時間が経過しては、不利になるのは我等だぞ。」
「ヘイヘイ。分かりましたよ、教皇補佐サマ。」


巨大な鬼神を牽制するようにジリジリと構えを取るアイオリア様とアルデバラン様の背後。
後から駆け付けたデスマスク様、シュラ様、サガ様の三人が、これから始まる戦いに向け、急速に小宇宙を高めた。
それは遠くで見ていた一般人の私にも感じられる程の、強い小宇宙の高まりだった。





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