「けっ、バカが。自分で自分の身体を小さくしやがった。これで本体の方は、余計にやり易くなったぜ。」
「いや、待て。あれは……。」


シュラ様とアルデバラン様によって、バラバラにされて吹き飛ばされた筈の分身。
粉々になったまま雲散霧消すると思われていたソレ等が、だが、予想に反して消える事なく、小さな塊のままに、その場に留まっていた。
唖然と見遣る視界の中で、ゴワゴワと奇妙な動きをするアメンボの肉塊は、側にある別の肉塊と溶け合い、少しずつ塊の大きさが増していき、再び、黒い胴体と、長い足を形成していく。
そして、その数を元の四倍に増やして、再び、シュラ様達の前に立ち塞がった。
つまり彼等の攻撃は、単に二体だった身体を、八体に分裂させただけに終わったのだ。
あの様子では、ダメージは然程受けてはいないだろう。


勿論、一体ずつの大きさは小さくなっている。
が、数が増えた分だけ、次の攻撃が当てにくくなったのは確かだ。
しかも、身体が小さくなった事により、それぞれのスピードも速くなっている。
そして、一番厄介なのは、攻撃を当てれば、そこから更に分裂して、より一層、攻撃が難しくなっていくという事。


「チッ、これでは埒が明かない!」
「このまま分裂が続けば、我等の手に負えなくなるやもしれん!」


縦横無尽に動き回り、前後左右から攻めてくるアメンボ達に拳を振るうが、それも一時しのぎに過ぎない事は、本人達が良く分かっていた。
シュラ様もアルデバラン様も、技の性質上、こういった相手とは相性が悪過ぎる。
今、鬼神の本体と対峙しているサガ様やデスマスク様ならば、楽に倒せる相手なのだろうが、彼等が本体の前から動く訳にはいかない。


「俺も加勢をっ……!」
「ならん、アイオリア。」
「何故だ、サガ! 俺の技なら、分裂させる事なく、相手を麻痺状態に出来るかもしれないのだぞ!」
「それでも、お前には、お前の役割がある。それは、この中の誰にも出来ん、お前にしか出来ない役割だ。分かるな?」
「クッ……!」


シュラ様達の加勢に入ろうとしたアイオリア様を止めたのは、サガ様の落ち着いた声だった。
サガ様の仰る役割。
カミュ様は、鬼神の拘束を。
シュラ様とアルデバラン様は、周囲の脅威を排除。
デスマスク様とサガ様が、鬼神への直接攻撃を受け持つとするなら、アイオリア様の役目は……、歩美さんの救助だ。
それはアイオリア様にしか出来ない役目。
アイオリア様が何よりも優先して務めなければならない義務。
歩美さんを守り、助ける事。


「時間がない。一気にいくぞ、デスマスク。」
「ヘイヘイ、分かってるっての。」
「すまない。お前達が頼りだ。」
「おーおー、たっぷり感謝すンだぞ。後で数倍にして返してもらうンだからなぁ、アイオリア。」


ビリビリと周辺の空気が揺れ、木々の葉がザワザワと鳴いた。
デスマスク様を中心にして円状に広がる強い力。
これが小宇宙の高まり……、一般人の私にも皮膚を突き刺すようにビリビリと伝わってくる。
勿論、それは鬼神にも伝わっていて、禊ぎの泉に覆い被さっていた状態から、その時、初めて手足を震わせて、その大きな身体を起き上がらせた。





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