そうして、暫く経った頃。
ぼんやりと修練の様子を眺めていた私の目と、候補生の少年達の動きを見ていた筈のシュラ様の目がピタリと合った。
ハッとして頬杖をついていた手を離し、背を伸ばす私。
シュラ様は少年達から目を離さないまま、ゆっくりと歩を進め、私のいるところまで、グルリと塀沿いに歩み寄ってきた。


「アンヌ、もう来ていたのか?」


塀を挟んで、内側に立つシュラ様と、外側に立っている私が、真横に並ぶ。
だが、彼の視線が少年達から逸らされる事はない。
私に言葉を掛けてはいても、その目は真剣なままに、途切れなく少年達の組み手の様子を熟視していた。


「荷物が重かったので早めに出てきたのですが、思いの外、早く着き過ぎたみたいで。」
「まぁ良い。コイツ等も疲れがピークに達する頃だ。少し早いが昼休憩にしよう。」


フッと小さな笑みを零し、寄り掛かった塀から背中を離す。
その仕草が痺れる程に格好良くて、そんな彼の背中から目が離せなくなる私。
颯爽と少年達のところへと向かって駆けていく後ろ姿は、一枚の絵にしたいくらいに素敵だ。


シュラ様の正体を知っている私でさえ、これだもの。
何も知らない女官達には威力倍増・効果覿面、うっかり心奪われてしまうのも頷けるわ。
本人は至って無自覚だけど、面倒だと言いたくなるくらいに女の子が群がって来る筈よね。
その理由はハッキリ過ぎるくらい、目に見えている。
だって、こんなにも素敵で魅力的なのですもの。
ただし、中身は生活力もやる気も限りなくゼロに近い、アレな人なんだけど……。


修練場の真ん中では、号令を掛けたシュラ様を囲んで、組み手を止めた少年達が集まっている。
真剣に耳を傾けて彼の言葉を聞いていた少年達は、「はい!」と大きな返事をした後、バラバラに散っていった。


「真面目で素直な子達ばかりみたいですね。」
「アンヌも、そう思うか?」


再び、私のいるところまで戻って来たシュラ様に、思ったままの事を伝えると、彼は何処となくデスマスク様を思わせるニヤリとした笑みを浮かべた。
あぁ、この笑い方は嫌だわ。
こういう『したり顔』っていうのかしら、それは似合わない。
もっとクールに、先程のような『フッ』とした笑みの方がずっとずっと素敵だし、彼に合っている。


「もっとクセのあるヤツがいても良いと思うんだがな。」
「クセのある子、ですか?」
「あぁ。こう協調性のない、周りを引っ掻き回すようなヤツだ。例えて言うなら、デスマスクのような。」
「デスマスク様? あんな感じの子がいたら、きっと大変ですよ。私だったら、出来るだけ係わり合いたくないですけど。」


視界の向こう側、遠く真向かいの塀辺りで歓談している数人の少年達を、シュラ様と私は先程と同じく塀を挟んで横に並び、何となく見つめていた。
シュラ様は彼等の姿に幼い日の自分達を重ねているのだろうか、鋭いその瞳を柔らかに細めて、何処か懐かしげに眺めている。


「だから良いんだ。そういうヤツが一人いると、彼等の中で色んな事件が起きる。諍(イサカ)いや、言い争い、派手な喧嘩とかな。そういう事から学べるものは意外に多い。ただ真面目に修練をこなすだけじゃ足りない、経験的にはな。」
「という事は……。シュラ様も、そういった事を経験して、今に至った訳ですね。」
「ん?」


それまで私の方を見なかったシュラ様が、疑問符を浮かべてこちらに視線を送る。
そんな彼に向かってニッコリと微笑んでみせると、私は言葉を続けた。


「だって、デスマスク様みたいな子どころか、そのデスマスク様そのものと一緒に学ばれたんですから。」
「フッ、くくっ。確かにそうだ。アイツのお陰で散々な事ばかりだったが、学んだものは大きいな。」


今頃、デスマスク様は巨蟹宮の中で派手なくしゃみでもしているかもしれない。
一人、豪快なくしゃみを飛ばすデスマスク様を思い浮かべ、私はクスクスと小さく笑い声を上げた。





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