――ガタリッ!


不意に響いた大きな音に、ハッと顔を上げる。
テーブルを挟んで向かい側、シュラ様が椅子から立ち上がっていた。
ガチャリと食器が積み上げられていく音に、現実に引き戻される。
意識はシュラ様が出立するであろう五日後へと向かってしまっていて、自然と私の気分も下降していたのだ。
彼の話を聞きながら、思わず俯いてしまっていたのも、そのためだった。


「話は済んだ。後片付けの時間だ。」
「シュラ様……。」
「今から、そんな苦しげな顔をして、どうする。お前にそんな顔をされれば、俺も行き辛くなる。」
「……でもっ。」
「耐えてくれ、アンヌ。俺が黄金聖闘士である事は、何をどうしたって変わらん。」


何度も話し合って、理解した筈の事。
シュラ様は黄金聖闘士で、命の危険と隣り合わせの任務だって多々ある。
それこそ、大きな戦いが起きれば、全ての聖闘士が命懸けで敵に挑んでいく、あの聖戦の時のように。
また彼が戻らぬ時が来るかもしれないと、私も覚悟していたし、それは聖闘士の恋人であれば乗り越えなければいけない事でもあった。


それでも、やはり……。
何をどうしたって、辛いものは辛い。
大好きな人が危険な任務へと赴くと聞いて、心配しない女はいないだろう。
気分が沈んでしまうのは仕方のない事だ。


「ならば、せめて共に過ごせる時間は、一分一秒でも大事に過ごしたいものだ。そう思わないか?」
「それは、そうですが……。」
「とっとと後片付けを済ましてしまうぞ。俺も手伝う。それが終われば、当初の約束通り、共に風呂だ。」
「っ?!」


そ、そうだった。
そんな話になっていたのだったわ。
彼が勝手に決めた事とはいえ、逆らう事は難しいだろう。
だって、普段はズボラで面倒臭がりのシュラ様が、自ら後片付けを手伝うと言っているのだもの。
それだけ、この後の時間を楽しみに、やる気満々になっているという事。


「あ、あの……。やはり一緒にシャワーを浴びるというのは、ちょっと……。」
「ん?」
「は、恥ずかしいと言いますか、ゆっくりシャワーを浴びられなくなると言いますか……。」
「別に俺がいたところで、急ぐ必要もないだろう。ゆっくりとシャワーを使えば良い。」
「いえ、あの……。」


そ、そうではなくて!
ホテルでの時のように、シュラ様が浴室の中で暴走してしまうのではないかと、それが心配なんです!
し、シャワーを浴びながらのアレやコレやは、女の方からすると結構、辛いのですから。
シュラ様は身体が大きいから、身長差があって、た、大変な事になるのです、い、色々と……。
のぼせてしまう事だってあるでしょうし……。


「なら、風呂では手は出さん。それで良いだろう?」
「……え?」
「お前が約束を守って、共にシャワーを浴びてくれるというのなら、俺も約束を守り、風呂の中では手を出さない。どうだ、アンヌ?」
「ほ、本当ですか?」


いまいち信用が出来ないけれども、シュラ様だけに。
普段は、どんな事でも信用出来るシュラ様だけど、ことソッチ方面にかけては、その信用は地に落ちている。
ホテルでの一日以来、欲望にブレーキを掛けろと言っても、彼には無理だと分かったから、尚更。


「俺は、約束は違わん。」
「それが信用出来れば良いのですけれど。」


積み上げられた食器を抱え、小さな溜息を吐く私。
それを見たシュラ様が、小さく肩を竦めて、いつものように片眉を上げてみせた。





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