嫌な予感はヒシヒシと感じていたけれど、まさか、それ程に危険な結果だったなんて。
何事もなくシュラ様が戻ってきてくれたから良かったものの、一歩間違えれば大怪我、もしくは命すら危なかったかもしれない任務だった。
目の前の彼を見つめ、零れ落ちそうになる息をグッと堪える。


「本来なら、後の始末はアイオリアが片を付けるべきもの。原因はアイツ自身が一番良く分かっている筈だからな。」
「でも……。」


今は、アイオリア様は聖域を動けない。
歩美さんを置いて、一人、遠方へと任務に向かう事は、教皇補佐であるアイオロス様が確実に許さないだろう。
アイオリア様には、彼女の身体の傷が癒え、その心が安定するまで、傍で見守る義務があるのだから。


「そうだ。だから報告が長引いてしまった。正確に言えば、報告は済んでも、その後の話し合いが難航したという方が正しい。」
「そのゴルゴンを倒すために誰が赴くのか、という事ですね。」
「あぁ。アイオリアが動けないとなると、ムウかシャカが適任なのだろうが、アイツ等は、まず間違いなく首を縦には振らんだろう。そうなれば、あとは誰が行っても同じようなものだ。」


サガ様に至っては、歩美さんを暫く放っておいてでも、アイオリア様に行かせるべきだと主張したそうだ。
だけど、アイオロス様は、それには断固、反対の意を示した。
今、アイオリア様が聖域を離れる事は、彼女にとっても望ましくない。
それ以上に、アイオリア様を甘やかす結果になるだけだと。
『任務』という正当な理由を得て、この息苦しい聖域から逃げ出す事が出来るのだから、それは『甘え』にしかならない、そう言い切って。
実兄の言葉としては、随分と手厳しい。


「結局は、俺が引き受けた。」
「し、シュラ様がっ? シュラ様がゴルゴンと戦うのですかっ?」
「そう厳しい顔をするな、アンヌ。仕方あるまい。俺には責任を取る義務がある。」
「責任……。」
「あの当時、アイオリアが荒れていた原因の大半は、俺のせいだ。例え、あの事件が正当な粛正であったとしても、アイツの心を傷付けた事に変わりはない。」


いつもいつも軽い言い争いをして、罵り合ったり、馬鹿にし合ったり、まるでじゃれ合う二匹の猫のような二人の姿ではあったけれど。
心の中には、互いに大きな葛藤を抱き続けていたのだ。
十何年もの長い間、それこそ、聖戦が終わるまで、ずっと。


「だが、俺の技は、ゴルゴンを相手にするには多分、一番不向きだ。得手・不得手を考えると、最も苦手とするところだろう。」
「それなのに、自ら志願したのですか?」
「あの洞窟の中、そこにいる化物がゴルゴンだとハッキリ認識した時に、覚悟はしていた。俺が始末を付けるべきだとな。しかし、些か不安も大きい。だから、補助としてデスマスクに同行してもらう事にした。」


デスマスク様も一緒に……。
ならば、少しは安心というか、黄金聖闘士が二人も相手となれば、流石の神話クラスの化物でさえ、太刀打ちは困難だろう。
ならば、少しでも早く戻ってきてくれる事を祈るばかりだ。
一刻も早く、少しでも早くに。





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