食事は無言で進められた。
といっても、そこに気まずさはなく、いつもと同じく美味しそうに頬張って、バクバクと食べ進めるシュラ様と、いつも以上に旺盛な彼の食欲に唖然とする私と。
食事の間は、料理を味わう事に集中して、話は後にするという事なのだろう。
シュラ様は満腹になるまで食事を進める手を止めず、最後のデザートであるキャラメルムースをペロリと平らげた後、そっとスプーンを置いて、それから「美味かった。」と一言だけボソリと告げた。


「お前の言う事を聞いて正解だったな、アンヌ。」
「……え?」
「これだけの料理を無駄にしては、きっと後で後悔しただろう。腹が満たされ、心も満たされて、気持ちにも余裕が出来た。」


という事は、やはり、あの険しい表情の通り、シュラ様は相当に苛立っていたのだろう。
理由は、これから聞かされる話の中にある。
私は空になっていたグラスにワインを注ぎ足し、そっとシュラ様の前へと滑らせた。
そして、彼へと話を促す。


「それで……、調査の結果はどうだったのですか?」
「アンヌも薄々は感付いていると思うが、俺にとっては良くないものとなったな。」
「それは一体……。」
「結果から言えば、神話クラスの化物だ。ここ最近の中では、特に厄介な相手と言えるだろう。」


シュラ様が調査に向かったのは、中国の奥地だった。
近隣の村人が何人も行方不明になったまま戻って来ないという報告を受けての現地調査。
中国当局の警察機構では原因を究明すら出来ず、聖域に依頼がきた案件であり、本来、このような調査は青銅聖闘士、もしくは白銀聖闘士が行うものだが、そこにシュラ様が向かったのには訳がある。


僅か数年前、ほぼ同じ場所で、同じような事件が起こり、その時にも、聖域から聖闘士が派遣され、その始末をつけたという記録が残っていたからだ。
当時、その地に向かった聖闘士は、獅子座のアイオリア様。
彼が十三歳の時の事件だ。


「その時に現れた神話クラスの化物。それは……、ゴルゴン三姉妹の一人だ。」
「姿を見た者を石に変えるという、あのメデューサの?」
「そうだ。そのメデューサの姉妹、エウリュアレという化物だ。それ程の相手ならば、黄金聖闘士でなければ太刀打ち出来なかったのだろう。だからこそ、アイオリアが現地に派遣された。だが、奴は、その任務を自分で遂行する事はしなかった。」
「という事は、他の人が?」
「そうだ。」


そのゴルゴンを倒したのは、青銅聖闘士だったという。
当時、中国の奥地を修行地としていた白銀聖闘士の弟子だった人物だ。
その白銀聖闘士は、ゴルゴンと対峙した際に命を落とし、弟子であった青銅聖闘士が、師匠の敵を討てるようにとの思いから、アイオリア様は身分を偽り、自らは裏方に徹したのだそうだ。


「だが、その判断は間違いだった。やはり黄金聖闘士の力で、しっかりと始末するべきだったのだ。」
「どういう事ですか?」
「その時、倒したと思っていた化物は、しかし、完全には消滅していなかった。僅かに残った命の欠片、それが七年の歳月を経て、徐々に本来の姿を取り戻た。そして、今、見事に復活を遂げたという訳だ。」
「そんな……。」


シュラ様が任務に向かう事は多々ある、聖闘士なのだから当然の事だ。
私は彼を支える者として、何も言わずに送り出す、それも当然の事。
だが、その任務で戦闘となる、ましてや対峙する相手が神話クラスの化物ならば、話は全く別だ。
シュラ様を襲う危険、怪我もそうだが、命の危険が取り分け濃い。


部屋の空気が重くなる。
食後の紅茶を淹れたカップを持つ右手が、小さく震えていた。





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