――バターン、ドタドタドタッ!


あ、シュラ様が帰ってきた。
相変わらず、物凄い足音だわ。
そんなに慌てなくても、夕食は直ぐにも出来上がるのに、困った人。
さて、シュラ様も戻ってきた事だし、そろそろパスタを茹で始めなきゃ。


「アンヌ!」
「あ、シュラ様。お帰りなさいま――、きゃっ?!」


ダイニングテーブルに、サラダとパンを丁度、並べ終えたところだった私は、そこに現れたシュラ様の気配に、笑顔で振り返った。
が、その途端。
何故か、ふわりと身体が浮く感覚に続いて、いつもの自分の目線よりも高い位置に、フラフラと視線が泳いでいる事に気付く。
一体、何事が起こったのかと、鈍い頭が正常に回り始めた頃には、視界が捉える景色が、ダイニングからリビングへと変わっていた。


「やっ! し、シュラ様っ?!」
「何だ?」
「何だ、ではありません! 何をしているのですか?!」


疾風の如き素早さで彼に抱き上げられていた私は、問答無用に連れ去られて、リビングのソファーの上に投げ出された。
しかも、振り返ると同時に、ズッシリと圧し掛かってくるシュラ様の大きな身体。
その瞳はギラギラと抑え切れない欲望に燃え、手は既に女官服の内側へと潜り込んできている。
何という素早さ、隙を逃さず、逃れようとする私の動きを巧みに逸らし、上手く手を滑らせていく。


「ずっと我慢してたんだ。もう耐え切れん。直ぐにも、お前を抱きたい、アンヌ。」
「だ、駄目です! もう直ぐ、お夕食が出来上がるのですから!」
「そんなもの、後で良い。」


そんなもの、ですって?
後で良い、ですって?
人が腕によりを掛けて作った料理、彼に美味しいものを食べてもらいたい一心で、一生懸命に心を籠めて作った料理を、そんな言い方しますか?!


「温かいお料理を用意して待っているって、言ったじゃないですか! 今、食べなきゃ、美味しさ半減です! それでは、シュラ様の為にと思って作ったディナーが、台無しになってしまいます!」
「…………。」
「任務の事だって聞きたいです。シュラ様が報告に向かってから数時間、ずっとずっと気になっていました。ちゃんと話を聞くまでは、私は気分が乗りません。」


そんな状態でセックスをしても、気持ち良くなんてなれないのではないですか?
それとも、シュラ様は自分だけ発散出来れば、それで良いのですか?


付け足した言葉に、彼の切れ長の瞳が、更にキリキリと吊り上がった。
が、それも一瞬の事。
ハアッと大きな息を吐き、ドッシリと重い体重を掛けて圧し掛かっていた身体を、私の上から退けた。
そのままソファーの空いたスペースに腰を下ろし、前髪をガシガシと掻き毟っている。
その表情は苦虫を噛み潰したような、苛立ちと諦めの入り交じったもの。


「……夕飯と、話が終わったら、時間の猶予はやらんぞ。俺も手伝うから、即行で後片付けを終わらせて、後はベッドに直行だ。良いな、アンヌ?」
「あの、せめてシャワーを……。」
「その時間すら惜しい。今夜は共に浴びよう。」


『共に』、その言葉を紡ぐと同時に、シュラ様の熱い視線が私を捉える。
ドキリと跳ね上がる心音。
脳内には、浴室で二人、絡み合う艶めかしい映像が過(ヨギ)り、ゾクゾクとした震えが身体の内側を走った。





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