先に折れたのはデスマスク様の方だった。
ハァと一つ大きな溜息を吐き、同時にガシガシと銀の髪を掻き毟る。
それから、テーブルの上のコーヒーカップをムンズと乱暴に握り取ると、その中に残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


「冷めてンじゃねぇか、ったく。」
「はぁ……。」
「取り敢えず、質問を変える。オマエ、その指輪、貰って嬉しかったか?」


ふんぞり返った姿勢はそのままに、私の手元を指差す。
言われて落とした視界に映ったのは、左手の薬指。
シュラ様から貰ったリングがキラリと輝いていた。


そりゃあ、指輪を貰って嬉しくない女の子なんていないだろう。
ましてや、贈ってくれた相手が好きな人や恋人なら、嬉しさの上に、計り知れない喜びが加わって、この上もない程、幸せな気持ちになるのは間違いない。
この小さなリングには、様々な想いが籠められているのだ。


それでも、それを贈る時のシチュエーションっていうのも、大事だとは思うけれど……。
わ、私だって、この指輪を貰った時は、それはそれは嬉しかったけれど、あ、あんな格好でさえなかったら、もっと感動的だったと思うのよね。
いえ、例えベッドの中で素っ裸のまま向かい合った状態であったとしても、もっとこうスマートに自然であれば、あのように滑稽にならずに済んだのに……。


「オイ。何、赤面してンだ、アンヌ?」
「はっ?! い、いえ、何でもありません。」
「ふーん。何か怪しいなぁ……。ま、いっか。ンじゃ、指輪にしとこう。」
「……指輪にしとこう?」


という事は、デスマスク様。
誰かに指輪を贈ろうと思っているの?
あ、でも、デスマスク様が指輪を贈る程の相手がいるとしたら、それは一人しかいない訳で……。


「もしかして恋人さんのところに謝罪に行かれるつもり、ですか?」
「あぁ?! 勝手に推測してニヤついてンじゃねぇよ! ……って怒鳴りてぇトコだが、ぶっちゃけ、その通りだ。」


珍しく素直に認めたデスマスク様は、酷く苦々しい表情をしていた。
自分から折れるのが、相当に嫌なのだろう。
でも、そうしない事には、事態は打開しないとも分かっているからこその、この選択。
だが、認めた上で、チッと小さく舌打ちしたのは、やはり彼らしい。


「本当に謝罪に行かれるんですか? デスマスク様が?」
「まぁな。このままじゃ、マジで一生、戻って来ねぇってな結果になる可能性は高い。だったら、これ以上、放っておく訳にはいかねぇだろが。だから、この俺の方から迎えに行ってやるンだよ。ま、渋々だがな、渋々。」


しつこいまでに『渋々』を強調し、自分の非が百パーセントではない事を主張するデスマスク様。
果たして、そんな態度で、恋人さんが許してくれるのかしら?
指輪なんぞ持っていっても、「そんなもので釣ろうとしても無駄!」とか言われて、突っ跳ねられるのが目に見えている気がしてならない。


「何と言うか……、デスマスク様には根本的に誠意が欠けていると思います。」
「あぁ? オマエ、この俺の決めた事に意見するつもりか?」


そうやってご機嫌斜めに怒るって事は、十分、自覚があるんですね。
はぁ。
これじゃ、恋人さんを連れ戻すなんて事、夢のまた夢にしかならないような……。
本気で帰って来て欲しいと願っているのでしょうか、この人は?





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