「しかし……、だな。」
「しかしもクソもない。お前も大概、諦めが悪いな、アイオリア。」


膝の上から、シュラ様がフンッと鼻を鳴らす音が聞こえた。
クールでストイックに見えて、実際は子供みたいに我が儘で容赦ない。
皆が思っている彼とは、随分と違う印象。
でも、そんなシュラ様だからこそ心惹かれているのも事実。


「そんな事を言われても、簡単に、『はい、分かりました。』とはならんだろう、普通?」
「あまりネチネチと想い続けていると、嫌われるぞ。ストーカーじゃあるまいし。」
「ね、ネチネチ、だとぉ?!」


そろそろアイオリア様との問答にも飽きてきたのか、またクルリと向きを変えて私のお腹の方へと顔へ向き直ったシュラ様。
背中を向けられてしまったアイオリア様は、そこに立ち尽くしたまま困惑顔だ。
それにしても、よくもまぁ、そのような事を言えたものですね。
何かにつけて『六年間も想い続けたんだ』と言っている事は、平気で棚に上げているのですから。


「……って、何しているんですか、シュラ様っ?!」
「な、どうした?! 何をされた、アンヌッ?!」
「煩い。俺がアンヌに何をしようと、お前に関係ないだろう。」


だからって、いきなりそういう事をしますか、普通っ?!
伸ばした腕で腰を抱き込んで、彼の顔がお腹へ埋まったと思ったら……。
ふ、太股と、お、お尻に手を這わすなんて!


「や、擽ったい、ですっ! や、止めてください、シュラ様! アイオリア様も見ています、からっ!」
「な! き、貴様! 雇い主だからと言って、女官の尻を撫でて良いと、お、思っているのかっ?!」


有り得ないっ!
有り得ないです!
ちゃんとした恋人同士(いや夫婦ですが)になったとはいえ、人前でこんな事されるのは、私としても不本意極まりないもの。
しかも、明らかにワザと仕掛けている悪戯がコレって、子供っぽいを通り越して、幼稚です、幼稚!


「何だ? 羨ましいのか、アイオリア?」
「う、羨ましいとか、そういう事ではない!」
「そんな顔を赤くして嘘を吐くな。羨ましいのなら、お前もやってもらえば良いだろう、膝枕くらい。日本人の方が腿は柔らかそうだしな。寝心地も良さそうだ。」
「なっ?!」


とんでもない爆弾発言を、サラッと言い放ったシュラ様と、その黒髪の後頭部を、口を開けて愕然と眺めるアイオリア様。
私は俯いて、お腹に埋まっている彼の横顔を見下ろした。
口元にはデスマスク様にも似た笑みが、薄く浮かんでいる。
目を見開いたままのアイオリア様は、口をパクパクとしたままだ。


「足に怪我をしていると言えど、膝枕程度なら十分に出来るだろう。彼女にやってもらえば良い。」
「ば、馬鹿かっ! 何をどう頼めと言うんだ?!」
「膝枕してくださいって、頼めば良いだろ。今よりも、ずっと距離が縮まる、確実にな。」


あ、それって……。
やっぱりシュラ様なりに、二人の距離を縮めようとしているって事?
でも、ハッキリ言ってしまえば、全く成功していないですけれど。


「俺は帰る!」
「あ、アイオリア様……。」
「こんな時間に二度と来るなよ。」
「もう、シュラ様っ!」


流石に、そのまま聞いているのが辛くなったのか、恥ずかしくなったのか。
顔を真っ赤にしたアイオリア様が、踵を返して部屋を出ていく。
部屋の中には、ドアのバタンという大きな開閉音だけが、こだましていた。





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