「随分と苦労をしているな、と言いたいところだが。それもアイオリア、お前自身が抱え込んだものだ。同情は出来ん。」
「分かっている、分かっているさ。だからこそ、彼女としっかり向き合おうと努力はしている。してはいるのだが……。」


それが中々、伝わらなくてな。
そう言って、深く溜息を吐くと、アイオリア様は目を伏せて、前髪を掻き毟った。
アイオリア様が、そういう仕草をしてみせるのは珍しい。
いつも厳しく眉を顰めているか、それとも快活に笑ってみせるか。
彼は喜怒哀楽のハッキリとした人であって、曖昧な表情の似合わない人なのだと思っていた。


「理解はしている。こうなったからには彼女の一生を俺が背負っていかねばならん。その覚悟は……、してるつもりだ。」
「ならば、アンヌの事はスッパリ諦めろ。」
「っ?!」


アイオリア様にズバッと言うなり、シュラ様は再びクルリと向きを変えた。
今度は百八十度回転して、私のお腹の方へと顔を向けて寝そべる。
少しキツく言い過ぎではないだろうか。
そう思って、シュラ様の顔を見下ろせば、彼はチラと私の顔に視線を向け、その鋭い瞳をパチパチと瞬かせた。
目にゴミが入った訳ではない、それは合図。
アイオリア様には見えない位置で、私にだけ向けられた合図なんだわ。


「彼女の面倒をみると決めた以上、お前がアンヌと、どうこうなるという未来は有り得ない。無駄な希望は捨てて、現実を見ろ。それが出来ないようでは、ただの口先八寸、有言不実行の男と成り果てるぞ。」
「そ、それは……。」
「それとも、アンヌにキッパリと振られたいか? 流石に、それではお前が辛いだろう。」


そうか、シュラ様はワザとアイオリア様に厳しい言葉を投げ掛けているのだわ。
彼女の一生を背負う覚悟をしていると言いながら、私への未練を捨て切れないのなら、それは本当の覚悟ではない。
アイオリア様自身、それを理解してはいるのだろうけれど、敢えて第三者から指摘されれば、自分への甘えは許されなくなる。
そして、何かと理由を付けて現実から目を逸らす、逃げるという選択肢はなくなるのだ。
本来、その選択肢はあってはならないもの。
それを取り除くために投げ掛けた、この厳しい言葉。


私はシュラ様の黒髪を、そっと撫でた。
シュラ様だって、こんな厳しい事を言いたくて言っている訳ではない。
でも、この役目は自分にしか出来ないと分かっているからこそ、例えアイオリア様の恨みを買おうと、進んでその役目を負った。


「自分で抱え込んだ問題なら、最後まで責任を持て。お前は黄金の獅子だろう、アイオリア。この聖域で、お前以外の誰が彼女を守り、支えられるというんだ? アンヌの事なら心配はいらん。俺がずっと傍にいるのだからな。」
「シュラ様……。」


また向きを変え、立ち尽くすアイオリア様を見据えて、そう言い放ったシュラ様の言葉。
アイオリア様に向けられた言葉でありながら、その中に含まれている私への想いを感じ取り、ジワリと胸の奥が熱くなる。
膝に掛かる重み、直に感じる体温、その呼吸を間近で感じられる程の距離に、今、自分がいる事、いられる事。
アイオリア様には申し訳ないけれど、やはり私の心も身体も、全てがシュラ様のものだと、そう思えた。





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