上を向いて寝そべっていたシュラ様が、私の膝の上でクルリと向きを変えた。
また横向きになってしまった彼の表情は、私からは見えない。
だけど、途端に「うっ!」と呻いたアイオリア様の怯んだ様子から、いつものように鋭い瞳で睨んだのだろう事は容易に想像が出来た。


「何しに来た?」
「そ、それは、コレを返しにだな……。」


そう言って、先程、派手な音を伴って足元に落とした紙袋を取り上げるアイオリア様。
その中から出てきたのは、幾つもの容器類。
これまで何度か獅子宮の彼等に、食事をお裾分けしていた時に使ったものだ。


「ありがとうございます、アイオリア様。仰っていただければ、受け取りに伺いましたのに。」
「そんな訳にはいかん。アンヌの身体を思えばな。」
「だからと言って、こんな遅い時間に訪ねてくるのは、どうかと思うが?」
「シュラ様ったら。わざわざ届けてくださったのに、そんな言い方しなくても。」


余程、邪魔された事が気に食わないのか、平然と嫌味を言ってのけるシュラ様の態度に、私は呆れ果てるばかりだ。
本当に、この人はアイオリア様が絡むと拗ねたり、張り合ったり。
途端に子供みたいになってしまうのだから、困ったものだ。


「スマンな。昼に来た時に持ってくれば良かったのだが、アイツと言い合いをしている内に忘れてきてしまって……。」
「だったら、別に今じゃなくても良いだろ? 何故、俺のプライベートな時間を邪魔する?」
「それは……、出来るだけ彼女が寝ている間にと思ってだな……。」


何やら言い辛そうに言葉を濁らせるアイオリア様。
その態度を不思議に思って、よくよく話を聞けば、どうやら歩美さんの事が心配らしい。
彼女が目覚めている間に、獅子宮に一人にして置くのが不安だと言うのだ。


「眠っている間なら、宮の外に出ていってしまう心配はない。まだ安全だ。」
「どういう事だ、それは?」


つまりは、アイオリア様が禁を破って、この聖域へと連れて来た歩美さんは、周囲に良く思われていないという事。
しかも、聖域に縛り付けられてしまった事への不満を声高に叫び、アイオリア様へ不平を漏らし、八つ当たりしている。
実際に、彼女と接する事のない人達には、そのように聞こえ、見えてしまっているのだ。
アイオリア様は聖域に住まう聖闘士、一般人、老若男女、その区別なく、皆に人気が高く、信頼が厚い。
そんなアイオリア様の宮に平然と居座っている上に、黄金聖闘士である彼を困らせている、聖域の外から来た人間。
歩美さんが皆の不審を集めている事、周囲の人達の空気から、鈍い私にも容易に察せられた。


「一人で外に出るなと言っても、俺の言葉なんて聞きやしない。部屋の中ではリハビリにもならないからと、勝手に出て行こうとするんだ。危なっかしくて目が離せない。」
「一人で外に出れば、いつ、誰に襲われるか分からない。そう言いたいのか?」


コクンと一つ、アイオリア様が深く頷く。
いつも喧嘩ばかりしているように見えるけれど、やはり彼は優しい人だ。
そして、歩美さんの事を大事に思っているからこそ、こうも強く心配し、不安に思うのだろう。





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