フウと大きな溜息の音が聞こえ、私は驚きで膝の上のシュラ様の顔を覗き込んだ。
途端、クルリと向きを変え、それまで横向きだった彼が、真っ直ぐに私を見上げてくる。


「気持ちは分かるが、あまり首を突っ込み過ぎるな。アンヌは、そうやって気遣いをし過ぎる。まぁ、それがお前の良いところでもあるんだが。」
「そ、それは……。」


見上げてくるシュラ様の強い瞳と、そして、顔と顔のあまりの近さに、心臓がドキリと大きな音を立てて鳴った。
真っ直ぐに私だけを見つめる真剣な眼差し。
その瞳に捉えられると、私はどうしても上手く言葉が紡げなくなる。
心を通わせ、身体の交わりを許し合った今でも、私はシュラ様に対して、その言葉、その行動、その全てに胸の高鳴りを抑えられない。
それはつまり、どうしようもなく恋をしているという事。
私の心は、シュラ様を恋い慕って止まないという事。


「アイツ等の事に気を揉む前に、俺の事を、もっと考えていてくれ。」
「わ、私は……、いつもシュラ様の事ばかり考えて……、います。」
「本当に、か?」
「勿論です。今でさえ、こんなに胸が――。」


ドキドキと高鳴って、どうしようもない。
そう言おうとして、でも、その言葉は、スッと下から伸びてきたシュラ様の手が、私の頬を包んだ瞬間に途切れて消えた。
見上げてくる視線が熱い。
頬に触れる手も、その手の指が何かを期待するように頬を細かに擽る動きも。
膝の上に預けたシュラ様の頭の重みも、いつの間にか腰に回っていた、もう一方の手も、何もかも全てが熱く感じた。


頬に触れていた手が滑り、そこから首の後ろへと回る。
グッと籠められる力。
元々、近かった顔と顔の距離が更に縮まっていき、唇から零れる吐息が肌に掛かって酷く擽ったい……。


――ドゴンッ!


「な……、なな、何をしているっ?! また、そのようなハレンチな事をっ?!」
「っ?!」


大きな音が響き、驚いて顔を上げると、リビングの入口に肩をワナワナと震わせ、目を尖らせてコチラを睨み付けているアイオリア様がいた。
え、どうしてアイオリア様が、このような時間に、ココにいるの?
いえ、それよりも、またもやデジャブ?
というか、前にも全く同じ光景を見た気がするのですが。


「また、お前か、アイオリア。どうして同じタイミングで、しかも、全く同じ台詞で邪魔に入るんだ?」
「じゃ、邪魔などではない! 俺はちゃんとノックもしたし、声も掛けた! それに、こうして部屋の中に入ってこなければ、アンヌの貞操の危機を救えなかった! とすれば、俺はナイスタイミングだったという事だ!」


あぁ、そうか。
これはデジャブじゃなくて、同じ事の繰り返し。
私が倒れた翌日に、アイオリア様がお見舞いに来てくれた時と、全く同じ状況なのだわ。
あの時も確か、シュラ様に膝枕をして、耳掻きしていたっけ。
ただ、あの時と今とでは、シュラ様と私の関係が変わってしまったけれど。
雇い主と女官の関係から、今は恋人同士、いや夫婦になった。
その事をアイオリア様は知らない。





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