3.深入りは禁物



二人でケーキを完食し、その後片付けを終えてキッチンからリビングに戻ると、ソファーで雑誌を読んでいたシュラ様が、私に向かって手招きをしていた。
何か話でもあるのだろうか?
そう思い、小走りに近寄れば、隣に座れとジェスチャーで指示される。
左腕を引っ張られて、急かされるようにソファーに沈む私の身体。
と同時に、手にした雑誌を床に放り投げたシュラ様が、ゴロリとソファーの上に横になって、私の膝に頭を乗せた。


「し、シュラ様、あの……。」
「何だ? 膝枕くらい良いだろう?」
「いえ、あの、それは問題ないですけれども……。」


耳掻きも何もせずに、ただ膝枕だけというのは、どうにも手持ち無沙汰で落ち着かない。
でも、耳のお掃除は、つい二日前にしたばかりだし。


「気にするな。」
「そう言われましても。」


こうもズッシリとシュラ様の頭の重みを、膝の上に感じていれば、気にならない筈がない。
どうしようか散々悩んだ挙句、結局は仕方ないので、シュラ様の髪に、そっと手を滑らせた。


見た目よりも、ずっとフワフワとした髪は、触っていても心地良い。
撫でられているシュラ様も気持ちが良いのか、されるがまま何も言わずに寝転んでいる。
そうして彼の髪を触っているのが楽しくなった私は、前髪を掻き上げてみたり、首筋から逆撫でしてみたり、こめかみから指を通してみたりと、色々と好き勝手に撫で回していた。


「……アンヌ。」
「はい、何でしょうか?」


そうして暫くした頃、シュラ様が口を開いた。
すっかり黙り込んでいたから、気持ち良くて眠ってしまったのかと思っていたけれど、実際は起きていたのだわ。
そうと分かって、彼の短い襟足の髪を摘んでいた私は、慌てて指を離した。


「アイツ等の様子は、どうだった?」
「あいつ等?」
「アイオリア達の事だ。」


今日の午後の事ですね。
何だかんだでシュラ様も気になっているのだわ。
私は髪を撫でる手を止めずに、膝枕をしたままの体勢で、今日の午後のアイオリア様達の様子を、事細かに話して聞かせた。


「成る程、全面衝突状態は少し緩和されてきているようだな。」
「少しというか、お二人の間では、もうちゃんと理解し合っているのだと思います。外側からは衝突続行中のように見えますけれど。」


二人共、それを素直に表現出来ないだけ。
言葉にして、態度にして表せないだけだ、見ていて分かる。
素直に言葉に出来ないから、ついつい相手に不満をぶつけ、当たってしまう。
ただ、その繰り返し。
でも、実際のところ、心の中では違っていて、そんな事を言うつもりではなかったのだと後悔している。
今は、そんな状態なのだ。


「なら、もう大丈夫なんじゃないのか?」
「え?」
「俺達がアレコレ気を揉む必要はないという事だ。放っておいても自然と上手くいく。話を聞いた限り、俺はそう思うが。」
「でも……。」


誰かが背を押して上げなければ、あの二人は、きっと前に進めない。
そんな気がする。
シュラ様に言わせれば、ただのお節介でしかないのかもしれないけれど。
それでも、私は責任持って、最後までお二人の事を見守って、必要ならば手助けをして上げるべきだと、そう思っていた。





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