「そう言えば……。」


朝食も終わりに近付いた頃。
サラダを食べ終え、食後に必ず食べる果物に手を伸ばしたシュラ様が、おもむろに口を開いた。
ちなみに今朝の果物は新鮮な白桃。
それは聖域内市場のいつも馴染みの店のオジサンが、数日で食べ頃になるからと、一昨日、分けてくれたものだ。
本当に瑞々しくて、喉が痛くなるくらいに甘くて美味しい。


「今日、教皇宮へ行ったら、アンヌの事をシオン様と神官共に報告してくる。」
「え……?」
「多分、正式な結婚は認められないだろうがな。流石に、黄金聖闘士ともなると、しがらみや縛りが多くて面倒だ。好きな相手と自由に婚姻も出来んとは。」


仕方ない、彼等黄金聖闘士は、この聖域では組織の上の上の、そのまた上にいる方々なのだから。
しかも、今はアイオロス様と、その恋人さんの問題もある。
過去に妻帯していた黄金聖闘士の事例がない訳ではないのだが、教皇となると、それはまた別の話。
アイオロス様は、今はまだ教皇補佐という身分であるとはいえ、ゆくゆくは教皇となる事を、数多の神官や文官、そして、聖闘士の大多数とアテナ様まで切望している身。
そのために、もうずっと前から結婚を望んでいるにも係わらず、未だそれが認められていないのだ。
過去に妻帯していた教皇の前例がないという理由だけで。


だからこそ、シュラ様が結婚を望んでも、それを認められない可能性は高い。
シュラ様が教皇候補になる事は有り得ないけれど、アイオロス様を差し置いて、シュラ様の結婚を認めるというのは、流石に神官達も渋るだろう。


「だが、報告だけはしておかなければならん。何かあった時に、色々と困るからな。」
「は、はい……。」
「すまんな。暫くは事実婚という形が続くが、我慢してくれ。」


我慢も何も、私はシュラ様の傍近くにいられるだけで、十分幸せだ。
例え他の誰にも認められなくても、シュラ様の心と私の心が繋がっていると感じられる、それだけで満足している。
これ以上、私は望むものなんて何もないのに。


「お前をこのまま中途半端な位置に置いておく訳にもいかんだろう。色々と厄介な事もある。放っておけば、何処のどいつが手を出してくるか分からん。ちゃんとアンヌを『俺の妻』だとして、皆に知らせておかねば。」
「意外と心配性なのですね、シュラ様。」
「俺を心配性にさせているのは誰だと思っているんだ? お前がそんなに魅惑的で、そんなに鈍くさえなければ、俺もこのように焦ったりはしない。」


褒められているのか、けなされているのか。
どちらなのか判別がつかずに、私は苦い笑みを零す。
魅惑的と言われるのは嬉しいけれど、鈍いと言われるのは良い気分じゃない。
でも、私がどんなに鈍かろうが、今はそれを心配する必要もないのでは?
だって、私の心はシュラ様にだけ向いている、それ以外には絶対に傾かないと言い切れるもの。


「そう言ってくれるのは嬉しいが、その鈍さじゃ心配せずにはいられん。自分がどういう状況に追い込まれているのか分からぬようでは、危険は回避出来んからな。」
「はぁ……。」


こうしてシュラ様に心配してもらえるという事が、愛されている証拠、幸せの証なのだろう。
そう思うからこそ、彼のしたいようにさせておくのが良いと思って、何も言い返さない事にした。





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