早朝トレーニングから戻って来たシュラ様が、シャワーを浴び終えて、ダイニングに姿を現した時。
見事にタイミング良くオムレツが焼き上がり、それをお皿に盛り付けて朝食が完成した。
ふわっふわに仕上がったオムレツは、ここ最近の間では一番の出来上がり具合。
それに気分を良くした私は、上機嫌で自分の席に着いた。


「……シュラ様?」
「ん? あ、あぁ。」


普段であれば美味しそうな食事にまっしぐら、そちらの方ばかりに目が向いているシュラ様が、今朝はどういう訳か、ジッと私の顔を眺めている。
椅子の背に手を掛けた状態で制止したまま、座る事すら忘れている様子だったので、思わず声を掛けてしまったのだが、一体、何だと言うのだろう。
私の顔に何か付着でもしているのかと、指先で軽く頬を擦ってみた。


「いや、違う。そうではない。」
「では、何なのですか? 私の顔を、ジッと眺めていたようですが。」


軽く片眉を上げた後、彼はフォークを手に取り、ふわふわオムレツを口に運んだ。
その顔は相変わらず無表情だったが、軽く一つ頷いた仕草で分かる。
そのオムレツを『美味しい』と思ってくれた事が。


「今日のアンヌは、いつもよりも化粧が濃いようだと思ってな。」
「あ、はい。これは……。」


気が付いてくれたんだ、シュラ様……。
あまり女性に関心のない彼の事だ。
服装の変化や髪形、メイクの濃さや色味の違いに、敏感に気付くようなタイプではないと思っていただけに、こんなにも直ぐに気付いてもらえて、嬉しさが込み上げてくる。


「今日はシュラ様とお出掛けですから。お隣に並んだ時に不釣合いだと思われないよう、ちょっとだけ頑張ってみました。」
「別に普段のアンヌでも、十分に釣り合うと思うが……。だが、俺とのデートのために、いつもより念入りに化粧をしたのだと思うと、やはり嬉しいものだな。」
「え、デート?」


今日はデートではなく、頼まれたものを買い揃えに行くという、言わば『お遣い』みたいなものだ。
それに、そもそも『シュラ様とデート』という言葉が、ピンとこないと言うか、しっくりしない気がする。
どうにも、まだ主従という関係性が私の中から抜け切らず、『デート』というより、『買い物のお供』という感覚が強い。


「例え目的が何であれ、恋人同士が一緒に出掛けるのならば、それはデートだろう。」
「そう……、なのですか?」
「違うのか?」
「すみません、私には良く分からないです。」


そう答えると、シュラ様は小さく肩を竦め、それから、スッと伸ばした手で私の頭をポンポンと叩くように撫でた。
驚きで目を見開いて彼を見つめる私の視界の中、シュラ様はフッと軽い笑みを浮かべる。
その大好きな表情に、相変わらず胸を高鳴らせた私は、朝からクラクラと目眩を覚えていた。





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